
(ライター、構成作家:川岸 徹)
最新のデジタルテクノロジーを活用した現代アートから、「マシン」時代における芸術の可能性を探る展覧会「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」展が森美術館で開幕した。
混沌とした時代の不安を払拭
生成AI、MAD動画、シンギュラリティ、スペキュラティブ・フィクション、テクノスフィア、メタバース、非代替性トークン(NFT)。ここ数年でどれだけ新しい言葉が使われるようになったのだろう。耳慣れない言葉に困惑し、言い知れぬ恐怖や不安のようなものを漠然と感じている人もいるのではないか。
混沌とした時代に必要なものは、やはり「愛」だろう。ドイツの文豪ゲーテの名言に「愛が帯の役を果たさなければ/所詮はすべてバベルの塔に過ぎない」というのがある。デジタルテクノロジーの時代にこそ、誰も取り残さず、愛をもって丁寧に伝えていく意識が大切だ。それができなければ社会はバベルの塔と化してしまうかもしれない。
森美術館で開幕した「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」展。会場に入る前は「はたして自分の知識でついていけるのだろうか」という不安が少なからずあった。だが、そんな心配はご無用だと言い切りたい。難解に思われがちなテーマを、これほど親しみやすく見せることができるとは。展覧会のタイトルにもうたわれている通り、やはりラブ(愛)の力は偉大だ。
AIを身近に感じる「用語集」

展覧会の冒頭、「マシン・ラブ展をもっと楽しむための用語集」と題して26の言葉の解説がパネル展示されている。これが実にわかりやすい。
たとえば「MAD動画」の解説。「アニメやゲームを編集したり、再構成したりすることで新しい作品を作り上げる二次創作動画を意味します。人気アニメの名シーンに別の音楽を合わせたり、セリフを変えたり、異なる作品のシーンを組み合わせて新しいストーリーを作ったりします。これにより、原作とは異なる楽しみ方が生まれます。」
ラブ(愛情)のパネルにはこう解説されている。「人間が他者に対して抱く深い感情や思いやりを意味します。SNSやメタバースの登場は人々などの愛情表現や恋愛関係に影響を与えています。高度な人格と感情を持つ人工知能が誕生した場合、人間がマシンと深い心理的なつながりを築く時代が到来するかもしれません。」
これらの用語解説は、テキスト生成AI(ChatGPT)に「日本語130字以内。専門用語は避けながら、できるだけシンプルで明快な言葉を使用すること。小学校高学年でもわかるような言葉遣いを心がけること」などの条件を与え、自動生成されたもの。AIとの意思の疎通は、すでに「人間同士以上にスムーズ」というところを迎えているのだろうか。