日本競馬史上初のダービー優勝馬の凱旋門賞挑戦

 順調に成長したキズナは心肺機能、運動能力、性格等の評価も高く、2012年に関西・栗東トレーニングセンターの佐々木晶三厩舎に預けられ、10月の2歳新馬戦に勝利、一番人気に応えます。

 翌2013年5月のダービー出走まで6戦4勝という成績を引っさげ、ダービー当日、2.9倍の1番人気でレースに臨みました。1枠1番の最内枠からのレースは最後の直線でエピファネイアを半馬身捉えてゴールし、武豊騎手に5度目のダービージョッキーの称号を贈ります。

 武騎手はキズナの父・ディープインパクトにも騎乗してダービーを制覇しているので、ダービー馬父子制覇を同一騎手で成し遂げるという偉業を達成しています(武騎手は現在まで6度ダービージョッキーの栄誉に浴しています)。

 ダービー制覇後、キズナは父・ディープインパクトが勝利した菊花賞には目もくれず、10月にパリのロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞制覇をめざします。同年のダービー優勝馬の凱旋門賞挑戦は日本競馬史上初めてのことでした。

 3歳牡馬の場合、凱旋門賞での斤量(負担重量)が56.5キロと4歳以上の牡馬に比べ3キロ軽いので、かなり有利に働きます。キズナ参戦前の10年間(2003~12年)の優勝馬のうち、8頭が3歳馬でした(うち2頭が牝馬)。こうした状況を十分知り尽くしたうえでの陣営の挑戦だったのでしょう。

 渡仏したキズナは凱旋門賞の3週前に行われた前哨戦「ニエル賞(G2)」に出走。10頭立て4番人気でしたが、ゴール前で急追してきたルーラーオブザワールドと体を合わせて入着し、写真判定の結果、わずかな差(当地では「短頭」と表記)で勝利し、現地での評価も高まります。

 2013年10月6日、本番の凱旋門賞では17頭立ての3番人気、1番人気は前年クビ差で2着に泣いた日本馬・オルフェーブルでした。2番人気はこの年フランスのG1レースを連勝していた無敗の3歳牝馬トレヴでしたが、レースはこの女傑トレヴの圧倒的な勝利に終わります。2着にオルフェーブル(仏のトップジョッキー、スミヨン騎乗)、4着にキズナ(武豊騎乗)が入線しますが、トレヴとはそれぞれ5馬身差、7馬身差という完敗に終わります。

 このときのキズナをとりまく陣営は、生産者・ノースヒルズ(前述の前田幸治が経営する北海道の牧場)、馬主・前田晋二、調教師・佐々木晶三というトリオで、佐々木調教師は2004年にタップダンスシチー(佐藤哲三騎乗)で凱旋門賞に挑戦した経験がありました(19頭立て17着)。

 馬主の前田晋二は前述の前田幸治の弟で、当時、馬主としての実績が芳しくなかったことから兄の幸治が期待馬として温めていたキズナを贈ったという「兄弟の絆物語」もこの馬らしいエピソードです。

 10月5日に行われる今年の凱旋門賞には、北村友一騎手を背にダービーを制したクロワデュノールが3歳馬として挑戦します。大怪我から復帰しデビュー20年目でダービージョッキーの仲間入りを果たした北村友一騎手の勢いに期待し、パリの夜空にクロワデュノール(北十字星=白鳥座の意)が光り輝きながら大きく羽ばたくことを祈っています。七夕の日の願いが叶いますように!