「遊びじゃねえから遊びにする」蔦重のエンタメ精神
浅間山噴火による火山灰は、関東一帯を覆うことになり、江戸でも霜が厚く降りたようになったという。
新たな門出となるタイミングで、こんな災害が起きれば、不吉に感じて先行きが不安になってもおかしくはないが、蔦重は違った。手のひらに灰が降ってくるのを見て「恵みの雨……こりゃあ、恵みの灰だろ」と言って、むしろ勢いよく日本橋のほうへと向かっている。
日本橋の店に着いた蔦重は、吉原の女郎たちが着古した着物や帯を、屋根に上ってかけ始めた。突拍子もない行動に周囲がざわつくと、蔦重は「みなさんも布かけたほういいですよ」とアドバイス。瓦の隙間や樋(とい)に灰が溜まらないようにしているのだという。
それを聞いて、皆も蔦重にならって、布切れを屋根の上にこぞって敷くようになった。緊急時において蔦重は、率先して行動を起こすことで、皆の手本となったのである。
また、奉行所から灰を除去するようにとのお達しがあると、蔦重は「どうせなら、みんなで一緒に捨てませんか」と提案。蔦重は木の枝で地面に線を引いて、2チームに分けると「集めた灰を先に捨てたほうが勝ちの競争です!」と言い出した。
住民から「くだらねえ、遊びじゃねえんだよ」と反発されるも、「遊びじゃねえから遊びにするんじゃないですか」と言って意に介さない。「面白くねえ仕事こそ、面白くしねえと」と、勝ったチームに賞金まで出すと言って大いに盛り上げることとなった。
本来ならば、苦行でしかないはずの灰の除去をもエンタメにした蔦重。決して歓迎一色ではなかった日本橋の住民たちのムードを変えることに成功した。
門前払いをしていた、橋本愛演じる丸屋の一人娘「てい」も、そんな蔦重の姿勢に心が揺さぶられたようだ。災い転じて福をなすとは、このことだろう。これまで終始対立してきた鶴屋も「江戸一の利者、いや、江戸一のお祭り男はきっとこの街を盛り上げてくれるでしょう」と蔦重を見直して、「灰降って地固まる」と言って吉原の親父たちとまで和解できた。