田沼意次(画像:PIXTA)
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 NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第26回「三人の女」では、米価の高騰が生活に影響を与えるなか、高岡早紀演じる蔦重の実母「つよ」が現れて……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

7歳の蔦重を捨てた? 実母「つよ」の強烈キャラ

 ついに日本橋に進出した蔦屋重三郎だったが、もともと丸屋にいた奉公人たちも引き続き雇い入れたため、家計の状況が一変する。今回の放送では、支出額がかさんで、蔦重が頭を抱えるシーンがあった。

「おていさん、奉公人のかかり(給与)ってこんなすんですか」

 すると、妻のていは「さらに遺憾千万の知らせがございます」と堅苦しい表現で前置きしながら、「蔵の米が最後の一俵となりました」と苦しい食糧事情を明かす。住み込みで働く奉公人たちの米代がかかるうえに、多くの戯作者たちが出入りして食事をしていくことも、大きな出費となったようだ。

 ていからは「気軽にお立ち寄りいただくのをご遠慮願うなどは……」と提案されるも、蔦重は「新しい縁につながることもあるし」と答えている。クリエーターたちのつながりを大切にしながら数多くの作品を世に送り出してきた蔦重らしいスタンスだ。

 しかし、そうかと思えば、蔦重は一人の女性を見つけると、いきなり「今さら何しにきやがったんだよ!」とつまみだした。周囲があぜんとしていると、女性は「お前、おっかさんを捨てんのかい!」と応酬。蔦重の母だということが明らかになる。

 周囲はただただ圧倒されるなか、高岡早紀演じる母つよは、持ち前の強引さで蔦重のもとに居座ることとなった。

 史実において、蔦重は寛延3(1750)年1月7日に、尾張出身の吉原で働く父の丸山重助と、江戸生まれの母・津与の間に生まれた。幼名は「柯理(からまる)」で7歳の時に両親が離別。庄屋の「蔦屋」を経営する喜多川氏の養子となった。

 そんな生い立ちをうまく生かして、ドラマでは蔦重と母の独特な関係が描かれた。蔦重からすれば、幼少期に自分から離れた母が今さら現れたことで、主人公らしからぬ暴言を吐きながら、終始ないがしろにしている。

 一方、母はそんな冷たい息子にもひるむことなく「こんな賢いお嫁さんがいて、働き者に囲まれて、みーんな私が捨ててやったおかげだろ」と悪びれないのだから、大したものだ。これを聞いた蔦重の妻も奉公人たちも悪い気はしない、という意味でもすっかり場を支配してしまっている。

 そんな母に蔦重が思わず「あのババア、人の懐に入るのが恐ろしくうまくねえですか?」とこぼすシーンがあった。幾度となく難局を乗り越えてきた蔦重の「人間力」は母譲りだったのか、と分かる展開もストーリーに奥行きを持たせることになった。

 いつか蔦重の母の口から夫、つまり蔦重の父についても語られるのだろうか。わが子と離別した母の事情も明かされるかもしれない。これからの展開が気になるところだ。