松平定信像(福島県白河市の南湖神社、写真:PIXTA)
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 NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第27回「願わくば花の下にて春死なん」では、田沼意次と嫡男の意知は米の高騰問題に対処するが、なかなか状況は好転しない。一方で、一橋治済は意次が秘密裏に動いていることを知り……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

松前道廣の訴えで発覚した「意次の計画」

 お互いに腹に一物ありながら、表向きは友好関係を築いてきた一橋家第2代当主の一橋治済(はるさだ)と、老中の田沼意次。

 陰謀を張り巡らせて、嫡男の豊千代(後の徳川家斉)を次期将軍に据えることになった治済も、意次に対しては慎重な態度をとっている。なにしろ、10代将軍の家治が意次を重用している。今はまだ目立った動きはできない、といったところだろう。

 だが、今回の放送では、冒頭から緊迫した空気が流れた。えなりかずき演じる松前藩の第8代藩主・松前道廣(みちひろ)が、生田斗真演じる一橋治済の前で伏して、こんなことを言い出したからだ。

「蝦夷の上知(あげち)を即刻中止いただきたく存じます」

 上知とは、江戸幕府が大名や旗本から領地を没収することをいう。治済が「上知?」と応じると、道廣はさらに事情を説明している。

「蝦夷は、我が祖先が数多の戦いを経て平定した、血を流して切り取った地にございます! それを今更かすめ取ろうとは、ご公儀は盗人にございまするか」

 道廣からの抗議で、意次が密かに動いていることを知った治済は「面白くないのう」と、静かにつぶやいた。蝦夷地を巡る駆け引きを発端に、いよいよ治済と意次の対決のときが近づいてきたが、そもそもどのような経緯で、松前藩が蝦夷地を治めるようになったのか。