1.世界および米国のユダヤ人
本項は、2021年度の社会実情データ図解を参考にしている。
(1)世界のユダヤ人人口
ユダヤ人総人口1517万人とされる。そのうち、イスラエルに687.1万人、米国に600.0万人の合わせて1287.1万人が住んでおり、総人口に占める割合は85%に達する。
ユダヤ人は、この2国に集中して居住していることになる。2010年にはこの割合は81%だったので、集中度は上昇している。
そのほかの地域では、フランスの44.6万人、カナダの39.4万人、英国の29.2万人と続いている。
各国人口に占めるユダヤ人の比率は、イスラエルの73.93%が突出している。これは、イスラエルがそもそもユダヤ人の母国として設立されたことから当然と言えよう。
それ以外では、米国1.82%、カナダ1.03%、フランス0.69%、ハンガリー0.48%、ウルグアイ0.47%、オーストラリア0.46%、英国0.43%、アルゼンチン0.39%と続いている。
(2)米国のユダヤ人社会
米国在住のユダヤ人は、総人口(約3億人)の1.8%を占める。一方、米議会のユダヤ系議員は全議席の約5%。
政財界の有力者も多く、昨年の米誌長者番付では、トップ50人のうち2割がユダヤ系だった。
政治参加の意識の強さから、有権者登録、投票率ともに高いことで知られている。
伝統的に民主党支持者が多く、2008、2012年の大統領選では、米ユダヤ人有権者の7~8割が同党のオバマ大統領に投票した(毎日新聞2016年7月10日)。
このように、 米国のユダヤ社会は米国社会で大きな影響力をもつ勢力であるが、中東専門家・立山良司氏によれば、近年「二重の亀裂」が進行中だという。
二重の亀裂の象徴とされるのが、主要政党で本格的な大統領候補の指名争いでは初となるユダヤ系候補のバーニー・サンダーズ氏が、イスラエルの占領政策や米国のイスラエル寄りの姿勢を批判しながら善戦する結果を生じさせた点だ(毎日新聞2016年7月10日)。
二重の亀裂とは、一つは米国のユダヤ人の多くがリベラルで人権を重視するのに対して、イスラエルのユダヤ人社会がますます右傾化し、占領を当然視しパレスチナ問題の解決にも消極的であるという亀裂である。
もう一つは、米国ユダヤ人社会内部で、若者を中心にイスラエル政府への批判が高まり、若者が支持する「J Street」(2008年4月に米国で創設された新興のユダヤ人ロビー団体)のような新しいロビー組織が登場しているのに対して、米国・イスラエル公共問題委員会(AIPAC:American-Israel Public Affairs Committee)などのイスラエル・ロビー派がイスラエル政府の行動に無批判な支持を与えている亀裂である。
こうしたユダヤ社会の亀裂が、AIPACの歴史的敗北という結果をも生み出している。
イラン核開発合意(米英独仏中ロの6か国とイランが2015年に合意)には、AIPACが激しいロビー活動を通して断固反対したにもかかわらず、合意が成立してしまった。
さて、2023年10月以降のハマス奇襲へのイスラエルの過剰防衛とも言えるガザ侵攻に対して、米国ではユダヤ社会でも若者を中心に批判的な声が上がっているという。
米ピューリサーチセンターが行った意識調査(2019年11月~2020年6月)によると、ベンヤミン・ネタニヤフ首相のリーダーシップに賛成なのは保守的な65歳以上でも45%と半数以下。
さらに、19~29歳になると32%と3分の1以下にまで落ち込む。
イスラエルの占領政策などに抗議するするBDS運動(イスラエルのパレスチナ占領政策に抗議し、イスラエルに対するボイコット、投資撤退、制裁を求める国際的なキャンペーン)についても、19~29歳は27%しか反対していない。
さらに、「イスラエルの地は神がユダヤ人に与えたもの」という考えのユダヤ人は、高齢者でも3分の1に過ぎないという点は頭に置いておくべきことだろう。