変わらない価値の創造
ニッティドでは、年間200万足の5本指靴下が生産されている。糸の種類は5000SKU(SKUは在庫管理における最小の管理単位のこと)に及び、素材、太さ、色が細かく分かれており、日本と海外では好む色も異なるため、多様なニーズに対応できる体制を敷いている。

しかし、根底にある理念は40年前から変わらない。「単なる『履くもの』ではなく『足を包むもの』という哲学のもと、素材と構造の両面から足の本来の機能を引き出す」。この姿勢は、創業時から一貫している。
「私たちは何も変わっていません。世の中が変わったんですよ」と井戸端社長は語る。確かに、同社製品は原価低減を進めても限界があり、一足2000円前後と海外製の安価な靴下に比べれば高価だ。しかし、最近は世代を問わず、自分ならではのこだわりを大事にする風潮が強くなっている。20世紀型の大量生産大量消費と距離を置き始めた消費者が、ニッティドの「変わらない価値」を支持するようになっている。
日本国内の繊維産業が衰退する中、ニッティドは5本指靴下という独自の市場を開拓し、世界に向けて発信を続ける。理念を継承しながら、地域と共に歩む――その姿勢は、地方企業が生き残るための一つの答えを示している。時代に流されず、本質を見極め、信念を貫く。それは決して頑固さではない。「変わらない」という積極的な選択が、やがて時代の方から追いついてくる。ニッティドの40年は、そのことを静かに証明している。
【ニッティド】
1981年創業。和歌山県海南市に本社を置く5本指靴下専業メーカー。島精機製作所の編み機を活用した完全無縫製技術など、独自の製造技術を持つ。年間200万足を生産し、国内外に展開。2022年には地域交流拠点「トレーラーガーデン」を開設し、地域活性化にも取り組む。「履くものではなく足を包むもの」という創業理念のもと、素材と構造の両面から足本来の機能を引き出す製品づくりを続けている。