撮影/村川 荘兵衛

(岡本ジュン:ライター)

仕事や出張の後、美味しいお酒と食事を楽しみたい…自分だけの贅沢な時間を過ごせる、間違いないお店をグルメライターの岡本ジュンさんが紹介する新連載。ぜひご期待ください。(JBpress)

料理とワインと接客の妙を知る、“ほどの良さ”が秀逸

 もしも「ちょうどいい酒場」なんて言葉があるとすれば、それはこんな店なんじゃないかという気がする。京都・五条にある『沐』は、料理人・古村光平さんとサービス・森口さくらさんが二人で営む店。「大人の居酒屋」と二人は表現するが、「居酒屋」という言葉には収まりきれない、キラキラしたものがこの店には詰まっている。

左が古村さん、右が森口さん。二人の穏やかな人柄が店を包み込んでいる

 まず、立地がとてもいい。京都・五条はアクセスが良いのに、繁華なエリアからは少し離れた落ち着いた土地柄。都心に近いけれど、普段の暮らしを感じさせる空気感があり、豆腐屋や魚屋などの小売店もまだまだ残っている。

奥に細長い京都らしい間取り。大きなカウンターはゆったりしている

「この辺りを散歩していて、その時にいいなぁと思っていたんです」と森口さん。どうやら前々からこの土地に目をつけていたらしい。そのカンは大正解だったようで、いざ店を開いてみると、「ゆっくりお酒を楽しんで欲しい」という二人が理想とする環境に、ぴったりだったのだ。

カウンターの背景に美しいタイルが壁一面に広がっている

 古民家を改装した店舗は、何とも言えない味わいがある。木戸を開けると、目に飛び込んでくるのは湖の底のような美しいタイル。バックカウンターの壁一面がその色に染まっている。外観から想像するイメージを心地よく裏切るこの視覚的効果に、ドキドキやワクワクがかき立てられるのだ。

まるでデミグラスソースのようにきれいな「どて煮」が名物。オーダーを受けてから温めて出す