取材・文=岡本ジュン 撮影=村川荘兵衛
丁寧な仕事ぶりをうかがわせる和食をつまみにほろりと酔える
店名の酩酊は酔っぱらうこと。こんな名前の店を見つけたら、酒飲みなら見過ごすことはできないはず(笑)。場所は寺町京極商店街から細い路地を入ってすぐ、錦市場にも近いところだ。同じ路地に仕立て屋さん、古着屋さん、喫茶店などが並び、繁華な寺町京極商店街に比べると、ふいに静かでゆったりと時間が流れるようだ。
店の扉にさらりとかけられた暖簾には、和食の人気店を営む兄弟子の名前を見つけることができる。食通ならそれも気になるところだろう。
店主は太田充俊さん。祇園の割烹『千花』で腕を磨いた料理人だ。
初めて訪れた時、まずはと軽いつまみを頼むと、その場で野菜をゆでるところから始め、お通しサイズの小鉢ができたてで現れた。食べると歯ごたえや香りが絶妙で、ぱぁと気分が晴れやかになった。
居酒屋のようなラフな雰囲気だし、一人できりもりしていたのでてっきり作り置きを盛るのだろう思い込んでいたらからとても意外だった。あとでその話をすると、「料理によって作っておくこともありますよ。必要なことをやっているだけです」と太田さんはたいしたことないと笑うのだ。
料理はその日のお造り、おひたし、野菜の和え物、炊きもの、魚の煮つけ、角煮、焼鳥や出汁巻きなど、奇をてらわないメニューばかり。とはいえ丁寧な仕事ぶりがわかる端正な姿だ。
「料理はシンプルな方がいい」というだけに、こっくりした味も淡い味付けのものも、どれも素材をよく見て本来の味を生かしている。
例えば『鯛と午房の煮付』なら、ごぼうから出るいい出汁を生かしてあっさりめに炊く。『豚の角煮』は濃い口醤油でしっかり炊いて豚の脂に負けない味を出す。場合によってはダッチオーブンを駆使して焼き物を仕上げるのも面白い。
また調理場には蒸し器があり、見ていると魚の煮つけなども鍋で煮返すのではなく、皿に盛って蒸し器で温めて出す。これもまたおいしさの秘訣なのだという。