取材・文=岡本ジュン 撮影=村川荘兵衛
みんなの胃袋と健康を支える「街の食堂」
京都大学医学部附属病院、通称・京大病院の裏手にある小さな食堂が『キッチンくじら』。世の中が動き出す朝8時にこの店の扉は開く。朝食や日替わり定食が人気のここは、病院の夜勤明けの看護師さん、出勤前に朝ごはんを食べにくる会社員など、朝から多くの人でにぎわっている。
熱々のお味噌汁に、ガス窯で炊き上げるごはん、野菜たっぷりのおばんざいがこんもりと盛られた皿。その清く正しい姿を見ると惚れ惚れする。
「街の社食になりたいんです」と店主の野村昌史さんは笑いながら話す。
京都出身の野村さんは、かつて家庭で普通に食べられてきたおかずを作る。気をてらうことなく、ていねいに愛情をこめて。料理人として幾つかの店で働き、多くの経験を積んだが、この店で野村さんが作りたいのは祖母が作ってくれたような懐かしい京都のごはん。今では家庭で食べられることも減り、忘れられつつある料理。でも毎日食べても飽きない味だ。
特別なものはなにもなくても、淡々と当たり前に、日常のごはんがそこにあることがうれしい。それが食べたくて毎日でも通ってくる常連も多いのだ。
料理人として厨房で働いたり、店の立ち上げをまかされたり、飲食では様々な仕事をしたという野村さん。でも一番楽しかったのは賄い作りだったのだとか。
「京都には特別な料理も、高級な和食を出す店もたくさんあります。独立を考えたとき、それは他の人に任せて、自分の一番得意なことをやればいいと思えたんです」 という。