取材・文=岡本ジュン 撮影=村川荘兵衛

夫婦で営むかわいいバルには、世界的な生ハムのプロがいた

 生ハムで有名なスペインには、生ハムをカットするコルタドールと呼ばれる職人がいる。そのコルタドールがいるバルが京都にあった。素晴らしい生ハムを切り出してくれるその店の名前は『高倉小よこバル』。店のすぐ近くにある高倉小学校の“よこ”にあるという意味と、店主横川さんの“よこ”をかけているのだとか。

『高倉小よこバル』は、店主の横川剛貴さん、奥さまの咲さんのふたりともにコルタドールコンクールの入賞者というからびっくり。しかも剛貴さんは日本大会2位、咲さんは全国大会で優勝し、スペインで行われた決勝で堂々の第6位という実力。

 スペインの生ハムは豚の脚丸ごと1本からできている。そこから手作業で切り出すため、均一にスライスするにはなかなかのテクニックが必要だ。さらに部位ごとに異なる味わいに合わせて、厚みを変えたり、肉と脂のバランスを整えて塩気を調整したり、カッティング技術によって、食べた時に最高のおいしさを引き出すという。それだけのこだわりがあるからこそ、技術を競う国際コンクールも盛んなのだ。

右から、店主の横川剛貴さん、咲さん。生まれたばかりの赤ちゃんも一緒に

 横川剛貴さんがコルタドール・コンテストにチャレンジしようと考えたのは、働いていたスペイン料理店で生ハムを扱っていたことがきっかけだったという。

「生ハムを扱うにつれて、それが正しい方法なのかという疑問を持つようになっていきました。でも当時はまだあまり情報がなかったので、輸入業者さんに聞いたり、スペインの動画などをみたりして勉強していました」と剛貴さん。

専用のナイフで薄く、均等にスライスする技がスゴイ

 さらにレストラン研修でスペインに行く機会を得て、ここぞとばかりに現地で専用の道具を買って帰ってきた。そんなふうに着々と努力を積み重ねていた頃、コルタドールのコンクールがあることを知った。そこでチャレンジしてみようと奮い立ったのだ。そこからさらに猛特訓を重ねてコンクールに臨み、2011年、みごと全国大会で2位という成績を勝ち取った。

食べられない部分を正確に外し、かつ美しく切り出していく

 やがてコンクールの副賞として、スペイン・アンダルシアの生ハム研修に行くこととなる。そこで再び、基礎から生ハムを学び、ますますその世界にどっぷりとひたることになった。またスペインの深い食文化に触れるにつれ、スペイン人の生ハムへの熱い情熱を知ることとなり、「いつかスペイン人も納得するおいしい生ハムを出す店をやりたい」と剛貴さんは決心する。

 帰国後は「せっかく習得した技術を引き継ぎたい」と後輩の指導にも力を注ぎ、多くの後輩を育てた。その一人が、後に奥様として一緒に店を切り盛りすることになる咲さんだった。

 剛貴さんの教えを受けて、咲さんは2020年に全国大会で優勝、2021年にはスペインで行われた決勝にも出場するという快挙をなしとげたのだ。

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