ただ人々が生きて行く上で欠かせないコメの価格が短期間で2倍になるような事態は避けなければならない。米価高騰は低所得者に大きなダメージを与える。市場の失敗に政府が介入するのは当然であろう。小泉進次郎農相が行った備蓄米の廉価放出は評価してよいと思う。

秋に新米が出始める時期になると…
今回の米価格高騰を受けて今後のコメ政策をどうすべきだろうか。その方向を指し示すことは難しい。本稿では最後に次の2点だけ指摘しておきたい。
まず、5キログラムが2000円でも日本のコメは高いと言うことだ。FAOデータから計算すると2023年の米国のコメ輸出価格は882ドル/トンである。1ドル150円で計算すると5キログラムが662円になる。米カリフォルニア産の短粒米の品質は日本のコメに引けを取らない。
もう一つは、アジアの農村は貧しいという事実である。アジアの農村はコメを作ってきたが、経済が発展する中で、どの国の農村も貧しくなってしまった。現代において農業は儲かる職業ではない。
今回の高騰に際して農協を悪者にする論調をよく耳にするが、そのような主張をする人々は「地方創生」をどのように考えているのだろうか。筆者は過去35年ほどアジアの農業について研究してきたが、アジア諸国には日本の農協に相当する組織がない。似たようなものがあっても弱い。そのためにアジアの農民は日本の農民より政治的にも経済的にも弱い立場に置かれている。それが農村をより貧しくしている。
今回のようなコメ価格高騰は一筋縄で解決できる問題ではない。筆者は今回の高騰は、経済の基調がデフレからインフレに変わる局面で生じた一つのエピソードに過ぎないと思っている。
秋になって新米が出回り価格がそれなりの水準に落ち着けば、人々は他の物価も上がっているのだから、この程度の値上がりは仕方がないと思うようになるだろう。
全体の需給を見ると、今回備蓄米を放出した分だけ、供給過剰になっている。秋になって新米が出始める時期になると、多くの家庭は買いだめした古いコメが残っていることに気付くはずだ。それが今回のコメ騒動を終わらせることになる。