バブル崩壊以来続いてきたデフレが収まり、経済の基調がインフレになった。日銀がゼロ金利政策を止めて金利のある世の中が出現した。昨年は多く人がそれを実感した年だった。現に外食の値段は上がっている。ラーメンの価格が1000円を上回ることが話題になる時代である。
多くの人がこれからはコメの値段も上がるはずだと考えた。そう考えると、いつもは1袋買う人が2袋買う。コメは家庭でも備蓄が可能であるから、このような現象が起きる。それによって店頭での需給バランスが崩れた。スーパーの棚にコメがなくなると、人々はより一層買いだめに走る。その結果としてさらに価格が高騰した。
このような現象はしばしば生じる。大正7(1918)年に起きた米騒動も同じである。1914年に第一次世界大戦が始まると日本は連合国側に立って参戦したが、国土が戦場にならなかったために物資供給基地の役割を果たすことになり、戦争特需に沸いた。その結果として物価が高騰した。
また1918年に日本はロシア革命への干渉としてシベリアに出兵したが、軍がそれに必要な糧秣(りょうまつ:兵員用の食料と馬のえさ)を買い集めているとの噂が流れた。それを聞いた人々はコメが足りなくなると連想して、コメを買い漁った。それが米騒動を引き起こした。
同様のことは海外でも見られる。2010年の小麦価格の高騰は2011年のアラブの春の引き金になった。2010年のロシアの小麦生産量はかんばつによって平年作に比べて26%減少した。だがロシアは大量の在庫を有しており、かつ小麦輸出国である米国の作柄が安定していたことから、世界の小麦の供給には何の心配もなかった。
しかしエジプトはロシア産の小麦を多く輸入していたために、小麦が足りなくなるとの噂が流れると価格が高騰した。それに腹を立てた人々が政府を攻撃して、アラブの春につながった。だが時間が経ってみるとエジプトでも小麦の供給は十分にあり、餓死者が出るようなことはなかった。