会社にとっては人件費の上昇幅を抑えられる「合理的な選択肢」
最後3つ目は、総人件費が下がるケースです。ある年から初任給を大きく引き上げれば、その年代の社員は恩恵を受けます。しかし、他年代の社員について賃金カーブの上昇幅を低くしてI字型に近づければ、会社としてはむしろ総人件費を下げることも可能である一方、他年代の社員は不利益を被ることになります。
あるいは、他年代層の賃金カーブを維持したとしても、採用を絞って社員数を減らせばやはり総人件費を抑えることが可能です。しかしその場合、会社全体の業務をより少人数で担うことになるため、AIなどのツールを用いて自動化を進めるなどして業務の効率化を図らない限り、社員一人一人の仕事の負荷が増すことになります。
採用は競争です。優秀な人材は会社間で取り合いになりますし、人口減少によって若年層の数が減る中、人材の希少価値はますます高まっています。こうした状況下での賞与の月給化現象は、会社が月給を引き上げることで求職者の目を引き、熾烈な採用競争を勝ち抜こうとする人事戦略の一環だと見ることができます。
年々出生数が減り続ける中で、最も希少価値が高くなるのは社会人における最低年齢層である新卒社員です。会社としては特に、初任給の引き上げに躍起にならざるを得ません。すでに、初任給40万円を超える事例も登場しています。
今後も初任給を引き上げる会社が増え、引き上げ額の高さを競い合う機運がさらに高くなっていけば、並行して賞与の月給化に取り組む会社も増える可能性があります。その方が月給を引き上げやすくなるからです。
例えば、3カ月分の賞与を支給している会社が月給を5万円引き上げた場合。年間で5万円×12カ月=60万円の人件費が増えるだけでなく、賞与分として5万円×3カ月=15万円も上乗せされることになります。
しかし、もし完全年俸制を導入して賞与をなくせば、15万円の上乗せ分は丸々カットできます。人件費の上昇幅を抑える上で、会社にとっては合理的な選択肢です。ただし、賞与の月給化は会社にとってリスクもあります。