月給が上がっても「年収」「生涯賃金」が下がるケースも

 まず1つ目は、月給が高くなっても年収は低くなってしまうケースです。例えば、月給22万円で賞与が6カ月支給される場合。多くの会社は月給の大半を占める基本給をベースにして賞与を支給しますが、ここではシンプルに月給=基本給として考えてみます。月給22万円×12カ月で264万円。さらに、賞与として22万円×6カ月分の132万円が加わるので、年収は合計396万円となります。

 それに対し、月給は8万円高い30万円で、賞与が1カ月分支給される場合と比較するとどうでしょうか。月給30万円×12カ月で360万円。さらに、賞与として30万円×1カ月分を上乗せすると年収は390万円となります。月給だけ見れば30万円の方が高くなりますが、このケースだと年収では6万円低くなってしまうのです。

 次に、生涯年収が下がるケースです。多くの会社では年功賃金の名残もあって、月給額は50代後半をピークに年齢とともに上がっていき、定年を迎えながら下降する「逆L字型」のカーブを描く構造になっています。もし月給が高くなったとしても、この賃金カーブの上昇幅が低く平坦に近づけば、定年までに受け取る生涯年収が下がることがあり得ます。

 上昇幅が最も平坦な例として、年齢が上がっても給与が一切変わらないモデルを考えてみます。この場合、賃金カーブは逆L字を描かずに横一線のIの字になります。初任給が月給35万円と高額であったとしても、定年後まで変わらず賃金カーブがI字型であれば、生涯の平均月給はそのまま35万円です。

 一方、20代のうちはそれより13万円低い月給22万円を受けとり、30代、40代と月給が10万円ずつ上昇して定年後は35万円に下がる逆L字型のモデルを考えてみます。I字型モデルと比較したグラフが以下です。

 逆L字の方は定年前まで月給が32万円、42万円、52万円と段階的に上昇していくので、定年までに支払われる月給22万~52万円を平均すると37万円。35万円を上回ります。定年後は月給が35万円へと下がりますがI字型と同じ額なので、このケースの生涯年収は逆L字型の方がI字型よりも高いことになります。

 それでもI字型モデルの月給が35万円ではなく40万円であれば、逆L字型よりも生涯年収が高くなります。生涯年収の多寡を判別するには、初任給の高さだけでも賃金カーブの形だけでも情報として不十分で、モデルごとに試算する必要があるということです。