引越し先は築45年の団地だった。家賃は5万円台。大家は隣室に住む90歳の美山鈴(加賀まりこ)である。

 当初、麦巻はお節介な鈴の存在を煙たがり、別の部屋を探そうとした。しかし、鈴から存在を教えられた薬膳が自分の体にも良いのではないかと考え、入居を決める。鈴の部屋にはニートの青年・羽白司(宮沢氷魚)が居候しており、彼が薬膳に通じていた。

 麦巻も薬膳を独学で実践し始める。体へのメリットもある趣味が生まれたことにより、暮らしに楽しみが生まれた。それまでの麦巻は自分の人生を「ずっと曇りでときどき雨が降るような人生」と思っていた。

「幸せになるイメージすら湧かない」境遇が徐々に…

 それより、ずっと大きかったのは鈴、司との付き合いが生まれたこと。鈴から夕食のすき焼きに招かれたり、麦巻が自家製の梅ジュースなどをお裾分けしたり。疎外感が吹き飛ぶ濃厚な人間関係がそこにはあった。

 ある日、鈴とふかしたサツマイモを食べていた麦巻が、我が身の不運を打ち明けると、鈴はこう言う。

「これまでの自分と比べるから、しんどいんじゃない? こう考えたらどうかしら。新しい自分になったんだって」

 気がつくと、新しい麦巻は隣人に恵まれている。新たな職場も合っていた。デザイン事務所は建設会社より規模がはるかに小さかったが、代表の唐圭一郎(福士誠治)はスタッフに気を使うやさしい男性。麦巻が薬膳を始めたことを知ると、薬膳カフェでの麦巻の歓迎会を提案する。

 司の友人・八つ頭仁志(西山潤)は過去に5年間の引きこもり生活を送った。麦巻とファミレスで会うと、「幸せになるイメージすら湧かない」と嘆く。麦巻も同調する。

 しかし、司は笑った。「一歩一歩ですよ。山登りみたいなものです」。山登りは薬膳とも言い換えられる。クスリと違い、効き目は徐々に現れるからだ。

 やがて八つ頭は価値観の合う会社員・反橋りく(北乃きい)と出会い、結ばれる。麦巻もきっと幸せになれるだろう。その日は寝て待つしかない。