技術力・人材不足の懸念も
もう1つの懸念は、能動的サイバー防御の法律や体制が整うことにより、重要インフラへのサイバー攻撃を本当に防御できるのか、という点です。問題は、技術的なレベルアップだけではありません。とくに深刻なのが人材の確保です。
IT企業は近年、優秀な技術者を高待遇で迎え入れているうえ、サイバー防御を担うようなハイレベル人材は海外企業に流出しています。そうした民間企業と比べると決して好条件とは言えない公務員に、果たしてどの程度の人材が集まるのか、懸念が残っているのです。
“裾野”の問題もあります。政府は2016年に「情報処理安全確保支援士」という国家資格を創設し、サイバーセキュリティを担う人材の確保に努めてきました。ところが、現在の有資格者は約2万4000人。不足数は実に11万人に達しているとされています。
このため、政府は2030年までに有資格者を5万人にする計画を策定。更新の要件を緩和したり、企業での実務経験があれば実践講習を免除したりする制度改革を検討しています。
能動的サイバー防御は「サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる」(内閣官房)ものであるとされていますが、果たして「13秒に1度」という頻度でサイバー攻撃にさらされている状況をどこまで好転させることができるのでしょうか。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。