「司法リスク」が逆風に

 私はこの数週間ほど、李氏に対する有権者の視線が以前と変わってきたと感じている。学生から「先生は韓国人じゃないからうらやましい」という言葉をかけられるようになったのだ。

 この言葉をはじめて聞いたとき、一瞬耳を疑った。かつて在韓日本大使を務められた武藤正敏氏が退任後に『韓国人に生まれなくてよかった』という著書を出版すると、タイトルが嫌韓だと、韓国で非難の嵐が吹き荒れた。まさか、学生が私を陥れるために仕掛けた罠なのではないかとの疑念が一瞬頭をよぎりもした。

 だが、真意は全く違っていた。今回の選挙は大統領として推せる人物が誰一人いないなか、それでも選ばなくてはいけないから悩ましいというのだ。外国人で選挙権のない私が「うらやましい」というのは、そういうわけだ。

 ただ、李氏の疑惑は前から広く報じられていたのに、なぜ今になってそう思うようになったのか。そう訊ねてみると、誰しもほぼ同じ回答をする。それは、李氏の司法リスクだ。

 疑惑については前回の大統領選挙のころからわかっていたものの、昨年末の非常戒厳以降、他にいないからという理由で、次期大統領として李氏が適任なのだろうと考えていた。だが、いざ投票日が迫ってくると、そうした疑念のある人を大統領にしてはいけないのではないかと思い直すようになったというのだ。

 李氏の司法リスクに関しては、保守系の東亜日報社が刊行する雑誌『新東亜』が指摘している。疑惑については前回の大統領選挙当時の3年前からすでに取りざたされており、現在も完全に消えたわけではない。

 そうした状況で当選しても、李大統領への正当性への疑問は付きまとわざるを得ない。それゆえに、李氏の司法リスクは「大統領選挙の過程においてはもちろん、選挙以降にもしばらく続かざるをえない」と分析している。

 それらを察したのだろうか。李氏からも焦りが見え始めた。

 反日発言の復活である。