鉄鋼産業の採算悪化を招く中国の生産能力過剰

 日本製鉄は5月9日に開いた決算説明会で、今井正社長が中国の過剰生産と輸出拡大は構造的であり、米国の関税政策などが世界経済に大きな影響を及ぼし始めていることを指摘した。関税措置による影響は鋼材の対米輸出だけでなく、自動車などを通じた間接輸出、各国の鋼材輸出が米国からアジア向けにシフトし、国内での輸入鋼材増加やアジア市場でのさらなる需給緩和(輸出採算の悪化)につながるリスクもあるという。

 中国は国境を越えた投資で鉄鋼の生産能力を増強する計画で、世界の余剰生産能力は20年の5億トンから27年には7億2000万トンまで拡大する見通しだ。中国の過剰能力が問題になった2016年のレベルに逆戻りしてしまう。

 16年には主要7カ国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)や20カ国・地域首脳会議(G20杭州サミット)で過剰生産能力の解消をめざす取り組みを検討し、鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバルフォーラム(GFSEC)が設置された。しかし、中国は「GFSECは使命を終えた」として19年に離脱。16〜18年に減少した生産能力は19年から再び高まった。

 しかも現在は関税によって米国市場への輸出が難しくなっている。米中は応酬で跳ね上がった関税率を90日間、115%引き下げることで合意した。それでも市場の分断は深まり、製品は米国以外の国に向かう。

 薄鋼板などの国内在庫は低く抑えられているが、その理由は需要の強さではなく、鉄鋼大手が減産を継続しているからだ。昨年の国内粗鋼生産量は約8400万トンと21年に比べ12.8%も減少した。

 石化産業の苦境も深まる。石油化学工業協会がまとめた直近3月の生産実績によれば、基礎原料であるエチレン製造の設備稼働率は75.2%にとどまる。石化市場では稼働率90%が好不況の境目とされる。その水準を32カ月連続で下回り、直近では80%にも届かない。中国経済の低迷だけでなく、食品値上がりなどによる個人消費の冷え込みが石化製品の需要を押し下げてしまう。