アメリカは本当に政治主導が実現しているのか?

中林:そこは議論が分かれるところです。

 アメリカでも「官僚による政治腐敗がある」と考える人は少なくありません。ワシントンの泥沼をなんとかしてほしいという思いから、トランプ氏を選んだ人もいます。「選挙で選ばれてもいない官僚たちが、裏でいろんなことを決めようとして暗躍している」「許せない」という声が、保守派を中心に結構あります。

 米政府効率化省(DOGE)のトップとして政府職員を大量に削減したイーロン・マスク氏は、それなりに批判を浴びましたが、彼の断行に「よくやった、胸のすく思いだ」と強く共感する人も一定数存在することを忘れてはいけません。どこの国でも、選挙を経ていない官僚に対する疑念は膨らみがちなのだと思います。

 アメリカの場合は、猟官制(※)と呼びますが、政治指名職がかなりの割合を占めています。ですから、政権が交代すると4000人前後の人事が一気に変わります。

※猟官制:非公選の人物に役職を与えること。支持者や党員に役職を与える場合もある。

──アメリカでは、大統領が代わるたびに、大統領府の補佐官のみならず、各省庁の中級職以上の官僚も入れ替わると書かれています。

中林:そうです。政治指名職と呼ばれる人の人数があまりにも多く、政権が代わるたびにそれだけの数の人が入れ替わるので、この様子を「民族大移動」と呼ぶこともあります。ワシントンDCの引っ越し屋が忙しくなるのもこの時期です。

 日本のように、キャリア官僚が大きな裁量を発揮するのとは異なり、アメリカでは選挙で選ばれた人の意向が、官僚の人事を大きく左右するのです。

 それでも、アメリカ国民の中には、トランプ政権が官僚のリストラを断行したことを支持する人が少なくありません。アメリカはそもそもかつてのヨーロッパに見られた権力や統治機構に疑念を持つことから独立した国家ですから、大きな権力に対する疑念が、政治論争を引き起こすある種の活力にもなっているのだと思います。

──政治指名職で選ばれる方々は、官僚職に就いていない期間は何をしているのですか?