観光農園化して販売価格はどれだけ増えたか
農業において、観光農園ほど経営者とお客様の双方に数々の恩恵をもたらす、素晴らしいシステムはないと思っている。経営者の私にとっての恩恵は、手間のかかる収穫作業をお客様にやっていただくため、収穫作業自体がなくなってしまったことが最大のメリットだ。
一般的な出荷型のブルーベリー農家において、作業全体の中に占める収穫作業の割合は50%を超え、約60%を占める。この収穫作業をいかに効率化するかで収益は大きく変わってくる。

したがって、観光農園化することによって、収穫作業の時間がほとんどなくなるわけだから、収益への貢献は計り知れない。
収穫作業をすべて自前でやった場合と比較すると、おおむね年間300万円の労務費削減につながる。観光農園にすることは、農園は収益向上を、お客様は貴重な味覚狩り体験を可能にし、双方にメリットがあるWin-Winの関係を成立させた。

販売価格も大きく収益に貢献している。
出荷型の場合、ブルーベリーの小売価格の30%から40%ほどの価格でしか買い取ってもらえない。一方、観光農園の場合、中間卸業者を一切通さず、ダイレクトにお客様に販売するので、小売価格で販売できる。要するに観光農園の場合は、出荷型の卸売価格の2~3倍で販売できるわけだ。
収穫コストを削減できるうえに、販売価格も高いとなれば、観光農園がいかに収益を生みやすい仕組みであるかは、誰が見てもわかるはずだ。このように観光農園がいかに秀逸なビジネスモデルであるかがよくわかる。

栽培管理は養液栽培システムを採用している。ブルーベリーは北米原産のツツジ科の落葉温帯果樹。日本は気候的には温帯なので問題ないが、土壌環境が決定的に違う。水はけの良い強い酸性土壌はほとんど存在しないため、育てるのが難しい。
この問題点を解決したのが、養液栽培システムだった。排水性、通気性、保水性を兼ね備えた人工培地を大きいポットに入れ、そこにブルーベリーが好む酸性の肥料をブレンドし、コンピューターにセットして安定的に日に数回、液肥として供給する。
これによって、ブルーベリーの中に眠っている潜在能力が引き出され、生育が格段によくなる。ほぼ無人栽培しているにもかかわらず、生育が旺盛で、なおかつ美味しいブルーベリーが収穫できるという画期的なシステムだ。(続く)
【3回目】農業は“オワコン”ではない、デンソーを辞め45歳で農業に足を踏み入れた異業種起業家が見た日本農業の可能性
畔柳 茂樹(くろやなぎ・しげき)
愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
自動車部品最大手のデンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任したが、ハードワークの日々に疑問を持つようになり、農業への転身を決意2007年45歳で年収1000万円の安定した生活を捨て独立し、観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開設。起業後は、デンソー時代に培ったスキルを生かし、観光農園、無人栽培、ネット集客の仕組みを構築。今ではひと夏1万人が訪れる地域を代表する観光スポットとなる。わずか60日余りの営業にもかかわらず、会社員時代を大きく超える年収を実現。近年は、宮城・気仙沼での観光農園プロデュースによる被災地復興に取り組む。2018年11月には地方創生の農業成功事例として台湾政府から「台日地方創生政策交流会議」に招聘され講演。
毎年秋に開催する「成幸するブルーベリー農園講座」は参加者が延べ2000人を超える人気講座となっている。この農園をモデルにしたブルーベリー観光農園が全国に約100か所(2024年8月現在)が開園中、または開園準備中で、今後さらに増える見込み。