「戦わない」が基本戦略

 この理念、ビジョンを実現し、農園経営の進むべき方向性を示す経営戦略を次の3つに策定した。

「戦わないポジショニング」「1点集中主義」「生産性向上」だ。

 さて、「戦わない」ためにはどうしたらいいのか。その頃、いろいろな経営の勉強をしている中で、ぴったりだと思ったのが「ブルー・オーシャン戦略」だった。

 ブルー・オーシャン戦略は、一言で言うと「まったく新しい、競争のない世界を生み出して勝つ」こと、すなわち戦わない世界を自ら創ってしまうこと。この戦略を活用して成功した事例としてよく取りあげられるのは、斜陽産業のサーカス業界で飛躍的な成長を遂げたシルク・ドゥ・ソレイユだ。

 シルク・ドゥ・ソレイユの戦略は、わかりやすく言うと、既存のサーカスの真逆をやったこと。具体的には、「出演料が高いスターを雇わず、テーマ性で集客した」「ゾウなどの動物を使わず、人間だけでショーを行った」「子ども向けではなく、大人向けのサーカスにした」の3つ。

 スターや動物を使わずにコストを下げ、逆に大人向けにすることによって価格設定を上げ、落ち目のサーカスの中にあって、唯一大きく成長した。

 シルク・ドゥ・ソレイユのごとく、従来の観光農園の真逆をやる、イメージを一新するような競争のない世界を創造することに決めた。

 そもそもブルーベリー狩り観光農園自体が全国的にも数が少なく、愛知県内にも規模の大きなところはこの農園以外に3カ所しかない。いずれも名古屋から2時間近くかかるような遠隔地にあったので、この農園は存在するだけでもブルー・オーシャン戦略を実践しているようなものだった。

 従来の観光農園の真逆にするとは、具体的にはどうするのか。

 従来の観光農園とは、団体客主体で、時間の制約があるためあわただしく、スタッフも限られているので画一的なサービスと言える。これの真逆と考えるとすぐに答えは出てくる。

 団体さんはお断りをして、個人客専用の農園にした。その他にも時間制限を設けず、時間無制限食べ放題の方式を採用した。また畑まで一組一組お客様をご案内して、ブルーベリー狩りについて、美味しい食べ方や守ってほしいことを丁寧に説明するという“おもてなし”を心掛けた。

 従来の観光農園のイメージを一新し競合がほとんどいないスペースに戦略的にポジショニングしたのだ。