ブルーベリーとの運命的な出会い

 全国各地のオーガニックな農業を実習しながら、一番感じたことは、「志が高くなければ、この農業はできない」ということ。

 ほとんどが手作業になるので、その作業時間は相当なもので、私の猛烈サラリーマン時代に引けを取らないくらい働く時間は長い。先進技術を使わず自然任せになるので、大量生産は難しく収益も上がらない。

 会社を辞めるときに専務に言われた、「年収が2桁下がるぞ!」の言葉が、現実味を帯びて感じられた。

 その時間のない中で、販路を開拓して、場合によっては宅配まで自前でやる。忙しいうえに収益は限られ、自給自足的な生活がこの農業の本質だ。こんな生活を楽しめて、お客様の喜びを糧にできるような「志の高い人」でないと務まらない仕事なのだ。

観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開いた畔柳茂樹氏(写真:著者提供)

 一方、観光農園を想定した場合、いわゆる味覚狩りになり、商品性が高く、消費者に訴求力のある作物であるフルーツ系が有力な候補となる。どう考えても米、葉物野菜、根菜類ではない。具体的にはイチゴ、ブドウ、ブルーベリー、サクランボ、トマト、メロン、ミカンなどが候補として名を連ねる。

 候補選びの中で、本当に美味しいブルーベリーと運命的な出会いがあった。ブルーベリーはそもそも小粒で酸っぱいというイメージでしかなく、生食よりもジャムのように砂糖を加えて加工して食べるものだと思っていた。

 ところが、ブルーベリーは育て方次第で大粒で甘く、生食がもっとも美味しいとわかった。そのたわわに実をつけたブルーベリーの姿はあまりにも美しくうっとりして見惚れてしまうほどで、まるで貴婦人を見ているかのようだった。そのとき直感的に「これだ!」と感じるものがあった。(続く)

【2回目】観光農園化で販売価格は2~3倍増!顧客と生産者がウィンウィンとなる驚きのビジネスモデル

畔柳 茂樹(くろやなぎ・しげき)
愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。
自動車部品最大手のデンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任したが、ハードワークの日々に疑問を持つようになり、農業への転身を決意2007年45歳で年収1000万円の安定した生活を捨て独立し、観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開設。起業後は、デンソー時代に培ったスキルを生かし、観光農園、無人栽培、ネット集客の仕組みを構築。今ではひと夏1万人が訪れる地域を代表する観光スポットとなる。わずか60日余りの営業にもかかわらず、会社員時代を大きく超える年収を実現。近年は、宮城・気仙沼での観光農園プロデュースによる被災地復興に取り組む。2018年11月には地方創生の農業成功事例として台湾政府から「台日地方創生政策交流会議」に招聘され講演。
毎年秋に開催する「成幸するブルーベリー農園講座」は参加者が延べ2000人を超える人気講座となっている。この農園をモデルにしたブルーベリー観光農園が全国に約100か所(2024年8月現在)が開園中、または開園準備中で、今後さらに増える見込み。