2.日本人の訪中短期滞在ビザ免除措置再開の背景

 2024年10月に石破政権が発足すると、中国政府の対日姿勢が融和方向に変化した。

 石破茂首相が田中角栄元首相を政治の師であると公言していることがその一因と言われている。

 田中元首相は周恩来総理との間で1972年に日中国交正常化を実現した。日中関係改善の井戸を掘った人物である。

 当時の中国は統制経済から市場経済化へと舵を切ったばかりで、日本からの各種技術支援は中国経済発展の土台作りにおいて重要な役割を担った。

 国交正常化交渉において、中国が日本に対して戦後賠償を求めなかったことから、日本側もその姿勢を高く評価し、経済界の主要企業も自発的に対中技術支援に注力した。

 こうした良好な日中関係を両国民が喜んだことから、日中国交正常化は中国でも好意的に受け止められた。

 特に中国が鄧小平氏のリーダーシップの下、改革開放を推進し始めた1980年代は、日本経済も活力があり、中国が目指すべきモデルは日本の経済発展や企業経営であると考えられた。

 そうした時代のいい雰囲気を背景に、当時の日本の映画や歌謡曲のファンは今でも中国人の中に多い。

 年齢層としては40代から60代の人たちだ。

 田中元首相はそうした時代の日本を代表する国家リーダーであるため、今でも中国での評価は高い。

 石破首相はその田中元首相を政治の師と仰いでいると公言しているため、中国側からは温かい気持ちで受け止められている。

 それに加えて、昨年11月の米大統領選でドナルド・トランプ候補が勝利し、本年1月の大統領就任以降、米中関係が一段と悪化するリスクが高まった。

 中国としては日本が米国寄り一辺倒の姿勢をとることのないよう、対日強硬姿勢を見直したことも一因であると考えられる。

 以上のような事情を背景に、昨年11月末、中国政府は日本人向けに短期滞在ビザ免除措置を再開した。

 それと同時に、ビザ免除の滞在日数はコロナ前の15日から30日へと延長された。