エボナイトは、独特の手触りだけでなく、加工性も高く、細かい部品の製作に適している。インクに含まれる酸やアルカリへの耐性も強いため、高級万年筆のボディ素材として多くの愛好家から評価を受けている。
とはいえ、同社はエボナイトを使った万年筆としては後発の参入になったわけだが、なぜ軌道に乗せることができたのか。
天然素材から生まれる至高の筆記具――緻密な製造工程
エボナイト万年筆の製造は、素材そのものの製造から始まる。万年筆に必要なエボナイトからつくる。この一貫生産こそが、同社の強みだ。
同社の万年筆の原点となるのが混練り工程だ。インドネシアからの輸入品である最高級の天然ゴムと硫黄、そして充填材となるエボナイト粉末(エボ粉)をミキシングロールで混ぜ合わせる。
「まず、塊で入荷した天然ゴムをロールにかけ、柔らかくなるまで練ります」(遠藤社長)。

柔らかくなった生ゴムに硫黄とエボ粉を加えてさらに練り上げる際、空気が押し潰される独特の音が工場内に響く。万年筆のボディをカラーにしたい場合は、この工程でさらに顔料を加える。笑暮屋ブランドの魅力のひとつになっている鮮やかな色の実現には、ここでの絶妙な配合技術が欠かせない。

混練りを終えたエボナイトは、板状に切り分けられ、工場2階の作業場へと運ばれる。そこでは「押し出し機」の口に火を点けて、その熱を利用して表面が滑らかな丸棒を押し出す。
