現在の緑豊かで文化的な上野公園の光景からは想像もつきませんが、157年前、「西軍の不義を正す」という志のもと結集した多くの若者たちが、この地で命を落としていたことも、また事実なのです。

逆賊などではなく最上級のエリート集団

 それにしても、死体をあえて野ざらしにされるとは……、敵とはいえ、同じ日本人でありながら、なんとも酷い仕打ちを受けたものです。彰義隊の若者たちは、それほど悪辣な「反逆者」だったのでしょうか。

 以下は、4年前に執筆した、本連載50回目の記事です。

(参考)『渋沢栄一と上野に散った彰義隊、その意外な関係  開成をつくった男、佐野鼎』を辿る旅(第50回)』(2021.2.20)

 上記記事の中で、私は、2020年10月に出版された『新彰義隊戦史』(大藏八郎著、勉誠出版)という書籍を紹介しました。

 本書は、今から約115年前、明治時代に弁護士をしていた山崎有信(やまざきありのぶ)という人物が、彰義隊の元隊士や遺族らに直接取材をしてまとめた『彰義隊戦史』をベースに、さらに新しい知見や200点余りの写真・図版を加えて再構成した700ページ近い大作です。

 実は、私は『開成をつくった男 佐野鼎』(講談社)を執筆するにあたり、山崎有信が大正15年に出版した『幕末血涙史』という書籍の希少な復刻版を入手していました。本書は、幕末から明治維新の時代を生きた主要人物や関係者への聞き書きなどで構成されているのですが、この中に、佐野鼎が十代の頃に学んでいた下曽根塾の恩師である下曽根信敦(金三郎)も含まれていたため、どうしても読みたいと思ったのです。

 著者の山崎有信は明治3年生まれ。ご本人は明治維新を体験してはいませんが、弁護士という仕事を持ちながら、よくぞここまで、当時を生きた人々の肉声や証言を残してくれたものだと、本書を読みながら感嘆するばかりでした。

 「幕末血涙史」(山崎有信著)。当時の表紙の復刻

 そんな経緯もあって、山崎有信がまとめた著書の現代版が出版されたこと知った私は、ことさら感銘を受けることになりました。