多くの国は米国の健闘を願っているが・・・

 しかし、だからと言ってグローバルな影響力をめぐって米国と中国が競っている現実が変わるわけではない。

 残念ながら、その競争で好成績を上げてほしいと多くの国が望んでいる米国は「この」米国ではない。

 もっと言えば、トランプの米国が好成績を上げることはないだろう。

 米国の人口は中国の4分の1だ。米国の生産性の方がはるかに高いために経済規模は同程度だ。

 米国の理想や理想の方が魅力的なために米国の影響力は文化においても知的な分野においても政治においても中国のそれよりまだはるかに大きい。

 また米国は、米国と志を同じくし、米国の影響力を強化してくれる強力な同盟関係を築くことができた。要するに、この国は莫大な資産を相続し、その恩恵を享受してきたわけだ。

 今はどうか。トランプ体制で起きていることを考えてみてほしい。

 法の支配を報復の道具に変えようする試み。連邦政府の解体。正統な政権の基盤である法律の軽視。科学的な研究と偉大な大学の独立性への攻撃。信頼できる統計との戦い。

 あらゆる世代において米国の成功の土台になってきた移住者(不法移民に限らない)に対する敵意。

 医学と気候科学のあからさまな否認。貿易の経済学における最も基本的な概念のあからさまな拒絶。

 ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンに民主主義国ウクライナの指導者ウォロディミル・ゼレンスキーと同様に接したり、さらにひどいことにプーチンをゼレンスキーより厚遇したりしていること。

 そして、米国が築いた国際秩序の礎になっている数々の同盟国や協力機関をあからさまに見下す態度――。

 どれもこれも2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件の反乱を支持した政治運動によるものだ。

成功の土台を破壊する米国

 確かに、世界の経済秩序には改善の必要があった。中国を消費主導の経済成長に向かわせる必要性は圧倒的に大きい。米国内で大幅な改革が必要なことも明らかだ。

 しかし、今行われていることは改革ではなく、米国が内外で収めた成功の土台の破壊だ。

 この損害の回復は容易ではない。これを誰が、何が引き起こしたかを忘れることもできないだろう。

 法の支配と合衆国憲法を腐敗した縁故資本主義にすり替えようとしている米国が、中国との競争に勝つことはないだろう。

 損得勘定一辺倒の米国が、同盟国の心からの支援を受けることもない。

 世界が必要としているのは、中国と競いつつ協力する米国だ。この米国は残念ながら、どちらもうまくできないだろう。

(文中敬称略)

By Martin Wolf
 
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