(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年4月17日付)

ドルの価値に下押し圧力がかかり続ける可能性がある(写真は4月25日、写真:ロイター/アフロ)

前編から読む「世界経済を支える基軸通貨、トランプの貿易戦争で地盤に亀裂」

 偶然であろうと意図したものであろうと、トランプ政権が発足から3カ月で取った行動はほぼすべて、ドル相場の下支え要因に大きな打撃を与えている。

 4月第2週にはドル指数――主要国通貨のバスケットに対するドルの強さを表す指標――が2.8%下落した。

 これは過去30年間で7番目に大きな週間下落率だった。ドルは翌週も下げ続け、2025年に入ってからの下落率が8.2%に達した。

「地政学であれ貿易であれ、米国はもう信用できないというだけの話ではない」。米国の金融機関のある幹部はそうつぶやいた。

「我々は米国以外の世界をものの見事に怒らせてしまった。正真正銘の個人的な反感が我々に向けられており、それがドル相場に響く」

 何より目を引くのは、ドルが特にスイスフランや日本円など、市場が荒れると概して高くなるほかの「避難先」通貨に対して安くなっており、金に対しても下落していることだ。

 このようにドルが避難先通貨という高級社交クラブから追い出されたように見える事態に、多くのアナリストや投資家が衝撃を受けている。

 ドイツ銀行で外国為替調査のグローバルヘッドを務めるジョージ・サラベロス氏は11日発行のリポートで「トランプ大統領が関税で方針を転換したにもかかわらず、ドルはすでにダメージを負った」と記した。

「市場は今、世界の基軸通貨としての米ドルの構造的な魅力を査定し直しており、急速に進む脱ドル化を経験しているところだ」と評している。

基軸通貨としての地位は当面安泰かもしれないが・・・

 それにもかかわらず、ほとんどのアナリストは、基軸通貨としてのドルの地位が剥奪されることはなさそうだと話している。

 代役を務められそうな通貨がないというシンプルな理由からだ。

 ユーロは一つの通貨同盟の通貨だが、そこには20の異なる国が参加している。中国の人民元は厳しく統制されており、交換性に限りがある。

 スイスフランや日本円などの通貨は、規模が小さすぎて候補にならない。月並みな比喩を使えば、米ドルはクロゼットにあるなかで最も匂わないシャツであるだけでなく、サイズが合う唯一のシャツでもあるわけだ。

 OMFIFのソベル氏は「米ドルの優位性は当分の間は維持されるだろう。有望な代替通貨が存在しないからだ」と言う。

「欧州がしっかり共同歩調を取れるかどうかは疑わしいように思えるし、中国が資本の流出入をすぐには自由化しないことは明らかだ。では、米ドルの代わりになるのはどの通貨か。そんな通貨は一つもない」

 また、互いに独立しているが、からみ合ってもいる様々な要因のために、ドルの優位性は世界経済にしっかり織り込まれている。

 そのため、さすがのトランプ政権でも現状を根本から変えることはできそうにない。

中長期のドル相場の行方には大きな不確実性

 それでも一種の惰性と代役の不在のためにドル特有の役割は維持されるかもしれないが、価値が下がっていく可能性は残る。

 米ドル指数は4月に下落したものの、2020年の安値をまだ12%上回っており、2008年初めの底値に比べればほぼ40%高い。

 外国為替アナリストの多くは、以前の米ドルレートの予想を下方修正している。

 例えば、これまでドルに楽観的だったゴールドマン・サックスは、今後12カ月間で1ユーロ=1.20ドル、1ドル=135円の水準までドル安が進むと予測している。

 現在の水準からさらに6%下落する計算だ。

 同社の外国為替アナリストは「米国の統治と制度・機関におけるネガティブなトレンドは、米国の資産が長らく享受してきた法外な特権を侵食している。それが米国資産のリターンとドル相場の重石になっており、トレンドが反転しない限り、今後もそうであり続ける可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 長期的な見通しは一段と不透明だ。

 ニューヨーク連銀前総裁のビル・ダドリー氏は、ドルが上昇する可能性さえあると述べている。

 関税は今後、米国の景気を減速させるとともにインフレを加速させるだろうが、米国以外の国々では経済成長への打撃が米国のそれよりもはるかに顕著になる公算が大きいと主張する。

 これは他国の中央銀行がFRBよりも積極的に利下げする公算が大きいことを意味し、それらの国の通貨が対ドルで安くなるという理屈だ。