(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年4月17日付)

ドナルド・トランプの貿易戦争により、世界中の投資家が今、米ドルの優位性が弱まり、下手をすれば終わる可能性と向き合うことを強いられている。
1971年8月15日、日曜日の夜。
米国の大人と子供が大人気のテレビドラマ「ボナンザ」を見るためにテレビの前に集まっていた時、番組が中断されてリチャード・ニクソン大統領(当時)の姿が映し出された。
ニクソンは「新しい経済政策」を発表すると言い、数々の政策手段の概要を説明した。
そのなかには10%の輸入関税と、金(ゴールド)と米ドルとの交換停止が含まれていた。
ニクソン自身は、政策の発表が標的にしていた極悪非道な「国際通貨投機筋」よりも、ポンデローサ牧場のカートライト家の様子を見ながら日曜の夜を過ごそうと思っていた国民からの政治的な反発の方を強く心配していた。
ところが、結果はとてつもなく重大だった。
一時的な措置だと表明されていたにもかかわらず、米国がいわゆる金本位制に復帰することはなかったのだから。
「ニクソン・ショック」並みの衝撃
「ニクソン・ショック」として知られるこの出来事は、金融の一時代の終わりと次の時代の始まりを告げた。
1944年にニューハンプシャー州ブレトンウッズのマウント・ワシントン・ホテルで議論の末に編み出されたグローバルな通貨体制――金の裏付けのあるドルを太陽に見立て、ほかの通貨が惑星のようにその周りを回るシステム――が死んだのだ。
ニクソン・ショックは、通貨が自由に取引される変動相場制、迅速な信用創造、そしてグローバルな資本の流れを特徴とする新時代の到来に寄与した。
資本の流れは金のくびきを逃れ、政府の制限もますます及ばなくなっていった。
それから半世紀あまりを経た今、世界は同じくらい大きな規模のショックと格闘している。
米国のドナルド・トランプ政権は4月、攻撃的な関税の発動を明らかにした。
税率の高さとその算定方法の安直さは、政権の支持者の多くにとっても衝撃的だった。
金融市場の反乱を目の当たりにした大統領は、その関税の一部を90日間停止したが、投資家は今もピリピリしている。
金融や経済をめぐって対立が生じる時にはドル相場が上昇するのが普通だが、今回は逆に急落している。
トランプ政権が昔からの同盟国にますますけんか腰な態度を取ったり、主要閣僚の一部が米ドルの覇権についてどっちつかずな態度を示したりしていることから、世界中の投資家やアナリストは新時代到来の可能性に、すなわち米ドルの優位性が弱まる――下手をすれば終わる――可能性に向き合うことを強いられている。