中国が持つ強力なカード

 その理由の一つは、中国にも強力な手札があるからだ。

 貿易全体に占める中国の割合が米国のそれよりもすでに大きくなっている有力国は少なくない。

 ここにはオーストラリア、ブラジル、インド、インドネシア、日本、韓国などが含まれる。

 確かに、トランプが不満を漏らしている貿易赤字のせいもあり、中国よりも米国の方が輸出市場として重要だという有力国も少なくない。

 だが、多くの国々にとっては中国も重要な市場だ。そのうえ欠かすことのできない輸入品の供給元でもある。

 その多くは簡単に代替できない。とどのつまり、貿易の本来の目的は輸入にある。

 何にも増して、米国は信頼できない国になった。

「損得勘定」重視の米国とは、常に有利なディールをものにしようとする米国のことだ。

 まともな国なら、そんなパートナーに自国の大事な将来を託すことはしない。それが対中問題であれば特にそうだ。

 その意味でトランプが見せたカナダの扱いは、ことの本質が垣間見える決定的な瞬間だった。

 カナダ国民はこれを受け、総選挙で自由党を再び第1党に選んだ。

 この一件からトランプは学びを得るか。これまでの生き方を変えることができるのか。

 いや、彼はああいう人間だ。そして米国民が大統領に2度選んだ人物でもある。

 さらに言うなら、中国と縁を切るのはリスクが大きい。中国はきっと忘れないだろうし、許すこともないだろう。

 特に中国は、自国民は米国の国民よりも経済的な痛みに耐えられると思っている。

 さらに、中国にとっては貿易戦争は主に需要ショックであり、米国にとっては主に供給ショックだ。

 失われた需要の穴埋めをすることの方が失われた供給の代わりを探すことよりも易しい。

 要するに、米国は狙っていると思しきディールをまとめることはできないだろうし、中国との貿易戦争で思惑通りに勝利を収めることもないだろう。

 それがホワイトハウスの目にも明らかになるにつれ、トランプは勝利宣言をしつつ、少なくとも部分的に貿易戦争から手を引き、別の方面に転進するというのが筆者の見立てだ。