実際はチキンレース状態に

 では、現在売却に出されている部屋を売主の希望価格で購入する人たちはどんな人たちで、どんな思惑でこのマンションを購入することになるのだろうか。
 
 もちろん実需として住みたいという大金持ちの人もいるだろうが、これを投資として買うことを前提にしてみよう。

 売却希望価格で購入し、現在の賃貸サイトで募集されている募集賃料で運用すると考えた場合、投資利回りは80m2台の物件で1.7%から1.9%、100m2台で1.7%から2.0%程度に落ち込んでしまう。10年物国債利回りが1.347%程度(4月25日現在)だから、ほぼ国債並みの利回りしか得られないことになる。

 この程度の運用益しか得られないのであれば、投資としての利益を上げていくには2つの方法しかない。ひとつは今以上に賃料水準を引き上げていくこと。もうひとつが、運用では儲からないので、すぐに転売することだ。

 まず賃料水準を現在サイトに掲載されている賃料以上に値上げする可能性があるかどうかだ。

 ちなみに分譲時の取得であれば実現できる3%後半から4%半ばの利回りを実現しようと思えば、募集賃料を80m2台の物件で月額200万円から260万円、坪単価で8万円程度、100m2台で350万円から480万円、坪単価10万円から12万円で借り手をつけなければ実現できないことになる。

 こんなに高い賃料を支払う借り手は誰だろうか。にわかには思いつかない。現状ではあまり現実的ではない募集賃料にならざるを得ない。

 ならば、今の売主希望価格での買い手は、運用はあまり考えず、即転売するしかない。でもさらなる転売益を稼ぐには、投資利回りが1%半ば以下でも買う人が現れない限り、売買益は期待できないことになる。

 こうした状況は投資理論的にはあきらかに限界値を超えている。それでも「みんなが買うから大丈夫」と思うのだろうか。思うのは自由だが、いつまでも値上がりが続くと思う根拠はもはやとうの昔に崩れ去っているのだ。

 都内マンションマーケットは、三田ガーデンヒルズの例をみるまでもなく、完全なチキンレース状態に陥っている。

 きっかけは何であってもおかしくはない。相場はあるとき突然崩れるものだ。そんな危うい砂上に立っていることを、まだ多くの人が気付いていない。