ヘルシンキ大学のユイウェン・チェン教授はこう指摘している(前出記事より引用)。

「パンダは首脳会談とともにやって来て、首脳会談の直後に去った。この事実が示すのは、パンダはトップ案件であること。返還は習氏のメンツにかかわる。大国中国との関係悪化を避けたいフィンランド政府は、返還の伝え方を慎重に考えたはずだ」

 中国のパンダ外交は、欲しがる国があってこそ成立する。チェン教授は「中国政府が一番いやなのは、パンダはいらないという国が増えることだろう」という。

 ロシアのウクライナ侵略以後、危機感をもったフィンランドは大きく変わった。

 それまでの非同盟を捨て、NATO(北大西洋条約機構)に加盟した。防衛費も増大した。ロシアを擁護する中国に反感をもつ市民(国民)は多い。

 中国語普及のために中国が世界で建設している孔子学院も、2023年契約終了をもって閉鎖した。動物園の財政支援も却下した。

パンダを返還する動きはほかにも

 中国へパンダを返還する動きは、他国にもある。

 カナダは2014年から10年間の契約だったが、パンダの食料である竹を調達できないことを理由に、2020年に返還した。

 イギリスのエディンバラ動物園は、2011年から2頭を年間100万ドルで中国からレンタルした。しかし契約期限が来た時点で返還し、更新はしなかった。

 日本にパンダがやってきたのは、1972年の日中国交正常化が成った年である。記念に2頭のパンダ(カンカン、ランラン)がやって来て、大フィーバーが巻き起こったが、当時は無償供与だった。

上野動物園に到着し、特別公開されたランラン(左)とカンカン(1972年11月4日、写真:共同通信社)

 パンダは世界中で大人気のため、中国はパンダを外交の一材料に使っている。しかし、すべて「繁殖研究目的」での貸与である。

 中国がGDPで日本を抜き、経済大国2位になったのは2010年である。

 けちくさいことをいわずに無償供与(贈与)にすればいいではないかと思ったが、1975年発効のワシントン条約により、それはできないらしい。