
(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
「帰らないでほしい。ここで生まれたんですよ」と、おばさんが涙ぐむ。
このおばさんがだれかといえば、熱烈なパンダファンだ。なぜ涙ぐんでいるのかといえば、大好きなパンダが中国に帰ってしまうからである。
和歌山県白浜町の「アドベンチャーワールド」は2025年4月24日、飼育しているジャイアントパンダ全4頭を、6月末に中国に送り返すと発表した。
このレジャー施設のパンダは、「ジャイアントパンダ保護共同プロジェクト」で中国から貸与されたもので、今回の返還は、その契約期間の30年が終了するためらしい。
同施設ではこれまでに16頭の子が生まれたが(今度返される4頭のうち3頭はその国内誕生組)、所有権は国内で生まれたパンダも含めて中国にある。

この急な報せを聴いて、地元民や観光客はもとより、白浜町の役場職員や観光企業のあいだでは、困惑や驚き、惜しむ声が広がっているという。
先の涙ぐむおばさんはそのうちの一人である。嗚咽するおばさんもいる。
パンダファンはなぜか圧倒的におばさんが多い(その代表は、おばさんというよりおばあさんだが、黒柳徹子さん。日本パンダ保護協会の名誉会長でもある)。
これまでもパンダが中国に返されるたびに、おばさんたちは「ありがとう」とか「元気で」などの手書きのメッセ―ジを書いた紙を手に、空港までわざわざ見送りに行っていたのである。
6月末のパンダ返還でも、当然ながら、このような光景がテレビニュースで流れることが予想される。
パンダのレンタル料金は年間1億円以上
これほどまでにおばさんたちを狂奔させるパンダってなんなのだ?