音声AIが浸透すると方言が消滅するかもしれない(写真:Linaimages/shutterstock)音声AIが浸透すると方言が消滅するかもしれない(写真:Linaimages/shutterstock)

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 筆者は東京都の出身だが、まるっきり標準語の環境で育ったというわけではない。東京都西部の、数駅先はほぼ山と言えるような場所に実家があるのだが、そこでも「弁」と称される方言が存在していた。いまでもその方言を聞くと懐かしさを覚え、いつまでも残っていて欲しいという思いが湧く。

 もっとも、テクノロジーの進化は方言にとって大敵のようだ。

 15世紀、イングランドで初めて活版印刷技術を導入したと言われるウィリアム・キャクストンという人物は、その出版物の言語に、当時ロンドンで話されていた「方言」を使用したという。その結果、このロンドン方言が、イングランド全体の標準語として定着していくこととなった。

 また、電話が普及し始めたころ、初期の低帯域音質では方言の微妙な音が伝わりにくく、標準語の発音で話すことが推奨された。20世紀初頭には「電話で訛りが解消されるだろう」との社会的な期待があったことも報告されている

 そして、ラジオ放送やテレビ放送も、それが一定の話し方を「標準」として採用することで、広い範囲で方言の衰退に寄与することとなった。

 このように、テクノロジーにより言語の標準化が進むという例は枚挙にいとまがないが、そこに新たなラインナップが加わることになったようだ。それは「音声AI」である。