大きな文化的意義を持つ出来事だった「一夜のラジオ放送」
彬子さまの発信は、単なる話題づくりにとどまらない。
番組内では、漫画喫茶を訪れることや、高校野球への熱い思いなど、皇族というイメージからはやや意外とも思えるご自身の一面を率直に紹介され、リスナーに大きな親近感を与えたように思う。
さらに、歌舞伎やラグビーへの関心、そしてご自身が設立された団体「心游舎」の文化振興活動についても言及。特に、ラグビー日本代表の選手たちとの交流エピソードでは、彼らの努力や情熱に感動された様子が率直に語られ、スポーツや文化への深い理解と敬意がうかがえた。

また、事前に募集されたリスナーからの質問にも丁寧に答えられ、研究を続ける原動力については「何事にも面白がることが大事」と語られた言葉が印象的だった。
日本の伝統文化、芸術、スポーツ、そしてサブカルチャーなど、彬子さまが興味を抱かれる分野は幅広く、その上、深い理解と愛情をもって、リスナーに「知る喜び」「感じる楽しさ」を伝えている。その言葉には、知識を超えた共感と、文化をともに体験するような力があった。
なにより、その語りには学術的背景と実践者としての視点があり、一人の文化人・知識人としての姿も浮かび上がった。
現代は、SNSやYouTubeなど、多様な発信手段が存在する時代。彬子さまのように、伝統と現代を軽やかに行き来しながら発信する姿は、まさに「新しい皇室像の継承者」として、時代に求められる存在と言えるだろう。
このラジオ出演は一夜限りのイベントではなく、皇室と社会との間に新たな対話の回路が開かれたとすれば、それは単なる放送以上の、大きな文化的意義を持つ出来事だったと言えるのではないだろうか。

【つげ・のり子】
放送作家、ノンフィクション作家。東京女子大学卒。ワイドショーから政治経済番組、ラジオ番組まで様々な番組の構成を担当する。2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在もテレビ東京・BSテレ東「皇室の窓」で構成を担当。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。日本放送作家協会、日本脚本家連盟会員、日本メディア学会会員。西武文理大学非常勤講師も務める。