5年以内に産めなかったら全額返済
石川:はい。オルバーン首相は同性愛に対して非常に厳しい思想を持っていますし、政権が打ち出す家族政策も「結婚は(子どもを産み育てることを前提とした)男女の結びつきであり、子育ては母親(もしくは祖父母)が主導する」という伝統的なキリスト教の家族観に根ざしています。
こうした家族観を元に運営される家族政策は欧米の保守派からも注目を集めていて、イーロン・マスクやアメリカの保守政治団体、保守派のジャーナリストから好感を得ています。リベラル陣営との戦いを余儀なくされる欧米の保守派にとっては、ハンガリーは一種の「理想郷」として映っている面もあるのです。

一方で、ハンガリー国民が一枚岩かというと、そうとも言い切れません。地方では伝統的な価値観に沿って生きている人が多いのに対して、特に高いレベルの教育を受けた都市部のエリート層の若者はリベラルな価値観を持つ傾向にあります。
ハンガリーでも所得が高い人ほど子どもを持ちますが、彼ら/彼女たちの政治信条は往々にしてリベラルであり、(保守的な国から逃げるべく)EU圏内の諸外国に移住するという選択肢もあります。
──どのような政策が不興を買いかねないのでしょうか。
石川:例えば、オルバーン政権の「出産ローン」は、母親が35歳未満で、初婚の夫婦に約440万円を無利子で貸し付けるものの、「5年以内に子どもができなかったら直ちに全額返済」という風に厳しい条件が付いています。また、ローン残高の全額返済免除の対象は3人以上の子どもを持つ家族に限っていることにも、疑問を感じる人も多いのではないでしょうか。
さらに、オルバーンの家族政策においては税控除や現金給付こそ充実しているものの、設備投資は控えられていることも明記しておくべきでしょう。エアコンが故障し続けている公立病院などもあり、国民の非難を浴びています。
その点、昨年から急速に支持を伸ばしている保守系新興野党の「ティサ」は「税控除や現金給付の前に保育施設の拡充や病院の充実など福祉に力を入れるべきだ」と訴えかけ、多くの支持を取り付けています。オルバーン政権では汚職が多く、それが国民の信頼を毀損していることも付言しておきましょう。
──日本では子どもをたくさんつくらない理由のひとつに「都市部の住居が狭く・金額も高い」という点を指摘する識者もいます。ハンガリーの住宅購入補助政策の効果はどれほどあるのでしょうか。