3枠をとり続けた歴史

 今大会の持つ意味は重要だ。ただ、オリンピックへの道は前年の世界選手権だけが問われるわけでもない。毎年の世界選手権はその前年の世界選手権の成績で出場枠が決まるが、近年、日本のシングルは常に3枠を確保してきた。3人出られれば重圧も緩和する。つまり3枠をとり続けた歴史も見逃せない。

 日本は男子なら羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真らがいて盤石であった年もあるがそうではなかったときもある。印象深いのは2018年の世界選手権だ。このとき、羽生が怪我の影響で欠場となり、主軸は宇野が担うことになったが、宇野は大会期間中に負傷、フリーへの出場を危惧される状態にあった。それでも強行し2位。樋口美穂子コーチは、フリーの得点を待つ間の会話を忘れないという。

「昌磨がこう言ったんです。『これで枠とれましたかね』。それを聞いて、『えっ』と思いました。考えていることはそれだったか、と驚きました。『とれたと思うよ。頑張ったね』と言葉を返したと思います」

 出場枠確保の責任感から棄権を選ばなかった。

2018年3月24日、世界選手権、男子フリーのキスアンドクライでの宇野と樋口美穂子コーチ 写真=共同通信社

 この大会を印象付けるのは宇野ばかりではない。羽生の欠場、補欠一番手の無良崇人の辞退により出場することになった友野一希はショート、フリー、総合得点すべてで自己ベストを更新し5位。宇野とともに3枠確保に大きな役割を果たした。友野は2022年の世界選手権でも補欠二番手だったが世界選手権開幕の約1週間前に出場の打診を受け、すでに出場を予定していた国際大会を経て出場するという強行日程の中6位。優勝した宇野、2位の鍵山とともに存在感を放ち、2023年世界選手権でも日本勢では宇野の優勝に次ぐ6位で3枠に寄与した。