林野火災の発生条件が揃っていた大船渡林野火災の規模

 林野火災が発生し延焼する原因は、一般的には周知のとおり空気の乾燥と強い風にあります。事実、大規模な林野火災は冬〜春にかけて、太平洋側と瀬戸内地方で多く発生する傾向にあります。大陸から吹く強い北風が日本列島の山地にぶつかって日本海側に雪を降らせ、乾燥して太平洋側や瀬戸内地方に吹き下ろすからです。

 今冬はとくに日本海側が大雪に見舞われ、太平洋側では極度に乾燥した日が続きました。大船渡市では2月の月間降水量は観測史上最少を記録しており、2月3日から3月4日までの30日間の合計降水量は平年比5%(2.5mm)という少なさでした。林野火災が発生した2月26日も乾燥注意報が発表されていました。

 また、北風も強く吹いていました。当時大船渡市を含む岩手県南部沿岸には強風注意報が発表されており、最大瞬間風速は18.1mを記録していました。

 このように、大船渡市では乾燥と強風という林野火災の発生条件が揃っていたのです。

 日本全国で発生する林野火災は、2014年から2023年までの10年間で1万2699件、平均すると1年間で約1267件(図表2)になります。単純に日割りすると、1日に約3.5件の林野火災が日本のどこかで起こっていることになります。小規模な林野火災では死亡者がほとんどいないのでニュースになりにくいのでしょうが、じつはこんなに多くの林野火災が起こっているのです。

【図表2】林野火災の発生件数
出典:各年の「火災報告」消防庁

 そして、焼損面積を見ると、大船渡市の火災規模がいかに尋常ではなかったかを改めて思い知らされます。大阪と東京の中心部の面積との比較は前述のとおりですが、2900haという面積は、全国で1年間に焼ける林野面積の平均値の4倍以上なのです。言い換えれば、日本全国で4年間に発生するすべての林野火災で焼けた面積を足し合わせたのより広い範囲が、わずか12日間で焼き尽くされたのです。

 ちなみに、消防防災博物館によると、過去最大面積の林野が焼損したのは1961年5月に同じく岩手県で発生した「三陸大火」の際で、4万366haもの山林が焼けました。じつに大船渡市の火災の約14倍もの規模でした。