「ザ・アメ車」から「テスラの次」のEVに
キャデラックに対しては、古くからアメリカ映画などを通じて日本でもゴージャスな「ザ・アメ車」というイメージを持つ人が少なくないと思う。だが、現時点でキャデラックを身近な存在と思う人は少ないだろう。
販売台数を見ても、2月実績は47台にとどまり、これは「ロールスロイス(36台)並みの希少車」と言える。

そんなキャデラックが今、日本を含めたグローバル市場で大きく変わろうとしている。プレミアムEVとして、エントリーモデルから上級モデルまでフルラインアップを揃える体制を敷いているのだ。
先日、キャデラックとしては日本で5年ぶりとなる新車発表会があったが、単なる発表会ではなくEV戦略説明会であることに、集まった報道関係者の多くが驚いた。
今回公開された「リリック」の5月市場導入を皮切りに、26年には3列シートモデルの「ヴィステック」、エントリーモデルの「オプティック」、そしてパフォーマンスモデルの「リリックV」と立て続けに日本に導入するという。
GMは2020年に、EV専用プラットフォーム「アルティウム」を発表し、シボレーなどGMが持つ各ブランドでピックアップトラックや中大型SUVでのEVシフトを試みたものの、販売実績はGMの予想を大きく下回る結果となった。それを受けて、GMのメアリー・バーラCEOはEV戦略の見直しを迫られた。
こうした中で、キャデラックについては、全てのモデルをEV化するのではないが、GMとしてはEVが主体のラグジュアリーブランドとして、グローバルでブランドを再構築する決断をした。日本市場における今回の動きも、その一環である。

狙いとしては、いまやグローバル市場ではアメ車の筆頭格となったテスラが築いたEV市場で、ラグジュアリー領域を取りに行くのだと、筆者は思う。
テスラが近年、「モデルS」や「モデルX」などのプレミアム価格帯から、よりリーズナブルな大衆モデル「モデル3」や「モデルY」へと車種構成をシフトしていることを踏まえての動きだ。
そうなると、日本でもテスラによってアメ車慣れしたEVユーザーが、次のEV購入を考える上で、ジャーマンブランドや日系プレミアムのレクサスではなく、キャデラックという選択肢も出てくることになるだろう。
ジープやキャデラックの事業戦略に見られるように、日本市場でのアメ車の立ち位置が変わり始めている。
桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
◎Wikipedia