市中心部を10メートル規模でかさ上げ
陸前高田は過去に何度も津波被害を受けている。
東日本大震災の津波で流された海沿いの名勝「高田松原」は、そもそも江戸時代に植林された「防災林」だったことで有名だ。高潮などから田畑を守る目的だったが、明治三陸津波(1896年)や昭和三陸津波(1933年)、チリ地震津波(1960年)などの大きな津波からも陸前高田を守ってきた。
その高田松原の防災林も「奇跡の一本松」を残して全て流された。

では、次はどうすればいいのか。
市議会や住民らとの激論を経て、戸羽市長が出した結論は「かさ上げ」だった。被災した市街地に土を盛って津波が来ても届かないような高台を造成し、そこに街を開発してはどうか。そう考えたのである。
市中心部の「高田地区」を10メートル規模でかさ上げする土地区画整理事業は、2014年から2021年まで7年に及んだ。総事業費約1600億円のほとんどは国費である。

後背地の山を削って、長さ3キロのベルトコンベアーで運搬。総計で約500万立方メートルの土砂は新しいまちの土台になった。ベルトコンベアー方式は、トラックによる運搬より工期は短い。復興を急ぎたい陸前高田市にとって最適の方法だったと戸羽氏は振り返る。
当時の想定と比べて現在の復興状況はどの程度ですかと尋ねると、戸羽氏の答えは「65%くらいでしょうか」だった。ハード面の復興は進んだが、両輪となるはずのソフト面が追いついていないという認識だ。