いつか必ず、再び大津波が来る
戸羽氏への取材場所は、かさ上げされた新しい街のカフェだった。
造成地には、まちの拠点となる商業施設「アバッセたかた」が2017年から営業を始めており、市立図書館や市民文化会館などの公共施設も完成。市役所の新しい庁舎も完成し、バス高速輸送システム(BRT)を取り入れたJR駅も誕生した。
それでも問題は残る。造成地には今も利用の見通しが立たない空き地が目立ち、市民の間では、まちづくり計画が不十分だったのではないかとの疑問も消えてない。
こうした批判を十分に承知している戸羽氏は「次に津波が来た時に(かさ上げを)やって良かったと思ってもらえるよう、やるべきことをやったと思っています」と言う。
地元の人は、いつか必ず、再び大津波が来ると確信している。それは戸羽氏も同じ。だからこそ、かさ上げを選択したという。
では、ハードと対を成すソフト面、すなわち経済を軸とした市民活動はどのように軌道に乗せたらいいのだろうか。
「例えば、観光客を呼び込むための環境づくりは行政の役割ですが、おもてなしとか、地元にいかにお金を落としてもらうか、というようなことは民間の役割です。岩手県の太平洋沿岸部で最も観光客が多く訪れるのは陸前高田市ですが、長時間滞在する観光客が少ないのです」
在職中の2022年に開館した新博物館は、長期滞在を促す観光対策の1つでもある。津波で全壊した旧博物館を高台の市街地に再建し、現在は友好都市・名古屋市の博物館から借り受けた彫刻家オーギュスト・ロダンの「考える人」を展示中だ。
海岸沿いには「高田松原津波復興祈念公園」が整備された。大震災の津波に耐えた「奇跡の一本松」や、津波被害の跡が生々しく残る建物などを震災遺構として保存する事業も進んだ。震災を後世に伝える施設は、観光資源としても期待ができる。
市長としてこれらの事業を牽引した戸羽氏は「(まちの発展につながる)可能性を散りばめようとしたんです」と振り返った。
ただし、可能性を花開かせ、現実のものとするには「人」が要る。「日本の地方全体に言えることですが、まちにプレーヤーがいません。アイデアを実現する人が足りないんです」