政権交代でクリーンテックの産業政策が消滅

 トランプが過大な約束をし、期待外れの結果しか出さないように(大統領就任から1カ月で物価が下がると言っていたセリフを覚えておいでだろうか)、マスクも同じことをしてきた。

 まず、テスラが2011年以来初となる通年での販売台数減少を報告する一方で、中国のEVメーカー、比亜迪(BYD)が2024年の予想販売台数を20%近く上回ったという事実から始めよう。

 これは事業の垂直統合とサプライチェーンの所有(BYDはEV用の電池を内製している)、規模の経済を生かすことで、BYDが競合他社と比べたコストを劇的に引き下げてきた結果だ。

 これこそが中国の産業政策の魔法の方程式だ。大規模に絶えず反復することで、生産性を高く維持し、コストを低く抑えておくのだ。

 EVのような分野では、国の補助金が事業の拡大を支える。

 だが、ジョー・バイデン後の米国はクリーンテクノロジーについて産業政策を持たない。

 ドナルド・トランプはテスラに多大な恩恵を与えてきた充電ステーション建設への連邦政府の支援を打ち切り、恐らくEV向けの税制優遇措置も終わらせる。

 マスクは閣僚会議に参加できるかもしれないが、究極的には石油大手が共和党を動かしており、トランプはクリーンエネルギーへの移行を支えることに関心がない。

 国家を代表する中国チャンピオン企業との競争に勝とうとしている米国企業にとって、これは良い前兆ではない。

政治的な悪ふざけでブランド価値が毀損

 テスラは価格ではなく、高級ブランドであることに集中してきた。これはアップル戦略だ。

 だが、高級車として価格にプレミアムをつけるためには、一定の輝きと市場における名声を持っていると見られなければならない。

 マスクの政治的な悪ふざけは世界の多くの国・地域で彼のブランドの価値を落とした。

 欧州では、マスクが極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持を表明した後にテスラ車の販売が激減した。

 オランダのある年金基金は1月初め、抗議のためにテスラ株を売却した。

 フランスやノルウェー、英国では、テスラ車を所有している人が続々と「イーロンがクレイジーであることが分かる前にこれを買った」と書かれたステッカーを買っている。

 ドイツでは、テスラ工場での抗議デモが見慣れた光景になっている(筆者も最近、ニューヨーク・ブルックリンでのデモへの招待を受け取った)。

 こうしたことすべてがテスラの価格決定力とハイテクで持続可能なブランドの価値を毀損した。

 米投資銀行スティフェルのアナリスト、スティーブン・ジェンガロ氏によると、テスラの好感度ランキング(ブランドに対する消費者の認識を測定する指標)は史上最低に近い水準にある。