サウジの外交努力が地政学リスクを左右する理由
ロシアと米国の対話を主宰するよう指示したムハンマド皇太子は人権問題が災いしてバイデン前政権とは関係がぎくしゃくしていたが、今回の会談の成功により、「トランプ氏との間に緊密な関係が構築できる」と期待していることだろう。
だが、ガザ問題が暗い影を投げかけている。
トランプ氏が提唱した「米国がパレスチナ自治区ガザを管理し、住民を永久的に移住させる」計画はサウジアラビアにとって受け入れがたいものだ。イスラエルを利する政策をとれば、ガザ戦争開始以来、国内で高まり続ける「イスラエル憎し」の感情に火に油を注ぐことになってしまうとの危惧がある。
サウジアラビアはアラブ諸国と協議して近く代案を米国に提示すると言われている。
ロイターは18日「アラブ諸国はガザ復興のための費用として最大200億ドル(約3兆円)を拠出する可能性がある」と報じた。だが、この野心的な対案についてトランプ氏がどのように反応するかは不明だ。
サウジアラビアの外交面での動きはまだある。
CNNは17日「サウジアラビアは米国とイランとの間の核開発に関する新たな協議の仲介役を務めることにも前向きの姿勢を示している」と報じた。
トランプ政権はウクライナ停戦を成し遂げた後にイランへの圧力を強める一方、イランも「代理勢力」の弱体化で核兵器保有の意向が強まっているとの憶測がある。
オバマ政権時代に成立した「核合意」にサウジアラビアは不満だったが、現在、かつての敵対国だったイランとの関係は改善している。サウジアラビアとしても中東地域全体の緊迫化は避けたいところだろう。
このように、サウジアラビアの外交努力の成否はロシアと中東地域の地政学リスクを大きく左右する。原油価格の今後にも大きな影響を与えるのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。