「高校授業料の無償化」も中学受験の裾野を広げた要因

 中学入試では「4大模試」と言われる模擬試験がある。SAPIX(サピックス)、首都圏模試、日能研、四谷大塚が実施するものだ。模試の回ごとに各学校にどのくらいの志望者がいるか集計される。

 これらの模試データから志望動向が分かるのだが、偏差値がさほど高くない学校はSAPIX、日能研、四谷大塚の模擬試験ではほとんど志望者がいない。首都圏模試でも1桁だったりするので業界的にはあまり注目されない。

 だが、2025年の入試では応募者数を大きく伸ばした学校が多数出た。筆者が気付いた限りでも、佼成学園女子、女子聖学院、白梅学園清修、トキワ松学園、富士見丘、文京学院大女子、国士舘、桜丘、品川翔英、成立学園、多摩大目黒、千代田、東京立正、文教大付、明星、目白研心、藤嶺学園藤沢、アレセイア湘南、北鎌倉女子学園、湘南学園、日大藤沢、和洋国府台、麗澤、細田学園、武南……と多数あった。

 なぜこれほど多くの学校が応募者数を大きく伸ばしたのだろうか。

・受験率(中学受験者数÷首都圏の小6在籍者数)が上昇を続けていることで、中学受験の裾野が広がり、これまで受験していなかったような層が加わった
・各学校が地道な努力を続け、教育内容が充実してきたことに保護者が気がついた

 さらに、受験率にもつながる直近の動向で言えば、東京で「高校授業料の無償化」が拡大(国の施策としても検討されている)したことも大きいだろう。中学の3年間だけ私立の教育費を払うことができれば、中高一貫教育を受けさせられると考える保護者が増えた。

麗澤中学緑豊かな麗澤中学のキャンパス。同校はグローバル志向で国際社会に貢献できる人材を育てている
佼成学園留学コースがある佼成学園女子のグローバルセンターは国際色豊か
武南中学フィールドワークを大切にしている武南中学。2年生の3月にはベトナムで行う

 このように2025年の中学入試は予想外の傾向も見られたが、それは多くの学校で教育内容が充実・多様化していることの証しであり、保護者が描くわが子の人生も多種多様になってきたということだろう。

 これまでの志望校選びはどうしても「合格の可能性」に引きずられてきたことに加え、世間的な評価を気にする保護者も大勢いた。だが、これから受験に向き合うご家庭には、まずわが子を見つめ、「どの学校なら相性が良く、子どもの個性や能力を伸ばせそうか」という視点で学校を“発見”していただきたいものである。

【安田理(やすだ・おさむ)】
安田教育研究所代表。東京都出身。大手出版社にて雑誌の編集長を務めた後、教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年に安田教育研究所を設立。教職員研修・講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。各種新聞・雑誌、ウエブサイトにコラムを連載中。