「瑞祥のかたち」展示風景。江崎栄造《宝船「長崎丸」》大正5年(1916)

(ライター、構成作家:川岸 徹)

皇室に代々受け継がれた絵画・書・工芸品などの美術品を公開する皇居三の丸尚蔵館。2025年最初の展覧会「瑞祥のかたち」が開幕した。

宝船とともに瑞祥めぐりへ

 めでたいことの訪れを告げる縁起の良いもの。すなわち「瑞祥」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。初夢で見ると縁起がいいといわれる富士、鷹、茄子。長寿のシンボルとされる鶴と亀。伝説の生き物である龍、麒麟、鳳凰。祝いの席や引出物の意匠に用いられる松、竹、梅。

 こうした瑞祥は古くから芸術のモチーフとして用いられてきた。瑞祥について詠った和歌、めでたきものを描いた絵画、瑞祥の生き物をかたどった置物や香炉などの工芸品。そんな瑞祥の造形美を一堂に集めて紹介する展覧会「瑞祥のかたち」が皇居三の丸尚蔵館で開幕。縁起のいい品々がずらりと並び、華やかな新年の幕開けを感じさせてくれる。

 展覧会の冒頭に飾られているのは《宝船「長崎丸」》。長崎で宝永6(1709)年創業の鼈甲細工の老舗・江崎家の6代目・江崎栄造の手による鼈甲製の宝船で、大正5年11月に大正天皇が福岡県下を行幸された際に長崎県から献上された品だという。船上には農産物や水産加工品など、長崎県の名産品27品が積載され、それぞれの品の精緻な細工が素晴らしい。

 この宝船というもの、かつての日本では良い夢を見るために欠かせないものと考えられていた。人々は正月や節分の夜に、枕の下に宝船を描いた絵をしのばせて眠りについた。いい夢が見られれば、それでよし。夢見が悪かった時にはその絵を川に流して幸を願う、縁起直しを行ったそうだ。