若者の間でFIRE願望が広がっている(イメージ:mechichi/Shutterstock.com)

超高齢社会となり、60〜70代の就業率が年々高まっている。老後に年金が不足する懸念などで若者の将来不安も高まり、今の若い世代も高齢まで働く可能性が高い。しかし、若者の間ではFIRE(Financial Independence, Retire Early=経済的自立と早期リタイア)願望が広がっているというデータがある。時代に逆行するようにみえるが、なぜだろうか。データを分析していくと、実は超高齢社会に対応するための3つの改革が、意図しない「副作用」をもたらしているという不都合な真実が浮かび上がる。

(金本 麻里:パーソル総合研究所 研究員)

20代男性の3人に1人が「FIRE」を望む

 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」のデータによれば、ここ8年の短い間に、FIREを望む若者が急速に増えた。特に、若手男性において顕著である。

 具体的には、50代までには仕事を辞めてリタイアしたい20~30代の男性が、ここ8年で2倍に増えた。その結果、2024年は20代男性のおよそ3人に1人が50歳までのリタイアを希望。30代男性でもおよそ3人に1人が55歳までのリタイアを希望している。

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 また、このような早期リタイア希望者の増加は、大手企業社員でも中小企業社員でも、大卒でも高卒でも、独身でも子あり者でも同様に起きている。なお、女性には変化がみられないが、その理由は後述する。

出所:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査
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 なぜ早期リタイア希望者が増えているのだろうか。恐らく、複数の社会変化が重なっている。興味深いのは、超高齢社会に対応するために進められてきた社会改革が、意図せずもたらした「副作用」だと考えられる点だ。

 ポジティブな目標を掲げた社会改革が、予期せぬ副作用を生むことは歴史上多くの事例がある。例えば、1920年代のアメリカにおいて、アルコール消費を減らすため実施された禁酒法は、非合法な酒の流通を拡大させ、マフィアなどの犯罪組織が勢力を強める結果を招いた。若者のFIRE願望は、超高齢社会においては労働力不足を悪化させる副作用となりかねない。

 ここからは、若者の間にFIRE願望が広がる要因となった3つの社会改革について見ていきたい。