(1)FIRE願望を直接刺激する「資産運用の推奨」
まず考えられるのが、政府による資産運用の推奨である。
この改革は、国民の貯蓄を投資に回し、企業への資金供給を増やして経済を活性化させるとともに、老後資金の確保を促す目的で推進されている。当然、政府は国民が高齢まで働くことを想定しているため、iDeCoなど60歳以降を見据えた資産運用が重視されている。
しかし、こうした「資産運用立国」の推進と同じ時期に、経済不安を背景に若い世代でFIREブームが広がった。政府が進めたNISAや資産運用の啓発は、FIRE志向者の知識を高めると同時に、それまでFIREという発想がなかった若者にその発想を浸透させるきっかけになった。さらに、コロナ禍で株価が下落したタイミングで投資を始めた若者が、その後の株価回復により利益を得やすかった投資環境も、FIRE願望を後押ししたと推測される。
実際、データを見ると、早期リタイアを希望する理由として、「リタイア後の生活資金が十分あるから」が増えている。一方、「働くことが好きではない」といった後ろ向きの理由は減少した。この変化には、若者の資産運用への手ごたえがうかがえる。