(3)「働き方改革」で仕事よりプライベート優先へ
若者のFIRE願望について、「若者の働く意欲が下がってきているのではないか」という懸念もある。実際、早期リタイアを希望する理由を尋ねると、先述の通り「働くことが好きではないから」と回答した人の割合は男女ともに減ってはいるものの、圧倒的な1位である状況に変わりはない。若者が目の前の仕事に意欲的でなくなったことを示すわけではないが、中長期的に働き続ける意欲が失われている可能性は否定できない。
その背景として考えられるのは、働き方改革である。
2016年から取り組まれた働き方改革には、もともと超高齢社会に対応するために、多様な人材が活躍できる職場を作り、生産性を向上させる狙いがあった。しかし他方で、過重労働の是正は若者のプライベート重視の意識を強めた。
実際、仕事よりも私生活を重視する新入社員は2015年ごろから急増している*3。若者の間で増加する「仕事はほどほどにやり、プライベートを充実させたい」という考え方は、投資や倹約でFIREを目指す志向と相性が良い。働き方改革に起因するこのような意識の広がりが、結果的に若者のFIRE願望に火をつける一因となったと言えそうだ。
このように、複数の社会改革が複雑に絡み合い、若者のFIRE願望を強めた可能性がある。ただし、根底には将来のキャリアや生活に希望を見出しづらく、リスクヘッジのために若者がFIREに惹きつけられてしまう社会情勢があるだろう。
今後の社会を明るいものにしていくためには、若者が未来を恐れるのではなく、仕事に誇りと情熱を持てる環境をどう作るべきかを考える必要があるだろう。
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*1:「単身世帯化の日本経済への影響 FIRE願望と結びつくと人手不足は深刻化」(河田 皓史、みずほリサーチ&テクノロジーズ、2024)
*2:「パワーカップル世帯の動向-2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割」(久我 尚子、ニッセイ基礎研究所、2024)
*3:「新入社員『働くことの意識』調査」 (日本生産性本部、2019)