デービッド・アトキンソンが『新・観光立国論』を書いて、日本の進むべき道は観光であると説いたのが2015年である。わたしはそれを読み、なるほどと思ったが、それからわずか10年で、いまやオーバーツーリズムの危機が叫ばれるほどになろうとは、想像もしなかった。

 世界に類のない細やかなおもてなしや、清潔さ、自然の美しさ、多彩な食の美味さ、独特な異国情緒、治安のよさなど、日本自体の魅力に世界が気付き始めたのが一番の要因なのだろうが、そのうえ最近の円安によって、さらに拍車がかかっている。

 訪日外国人の増加にともない「インバウンド需要」が増え、経済面での貢献は国にとっては重要である。観光庁によれば、2024年の1~9月の訪日外国人による消費額は5兆8000億円になる。2015年頃は、中国人の爆買いで「中国人様様」だったのである。

 ここでオーバーツーリズム批判をするつもりはない。しかしそのことが、訪日客による“迷惑行為”の増加に関連していることは疑いがない。観光客が増えることにおけるジレンマである。

迷惑観光客は世界中で問題に

 なにも迷惑なのは中国人ばかりではない。

 京都の祇園では舞妓を追い回して写真撮影を強要する欧米人。あるいは富士山の映え写真が撮れるコンビニに殺到する。バスや電車にバカばかでかいバッグを持ち込む。そのせいで東海道新幹線の最後尾席の後ろが巨大バッグ用スペースになり、最後尾の座席が取れなくなった。

 一般の旅行客ではなく、一稼ぎしようとするインフルエンサーもいる。北海道室蘭の神社で、チリ人女性の観光客が鳥居を使って懸垂をする動画をインスタグラムへ投稿する。おとなしい日本人をいいことに、やりたい放題の食い詰め外人ユーチューバーもいる。

 オーバーツーリズムは、世界でも問題になっている。

 昨年夏、スペインのバルセロナでは、住民により「反観光」デモが相次いだという。数千人の参加者が「観光客は帰れ!」のシュプレヒコールを上げた。

 イタリアのベネチアでは、2024年4月、日帰り観光客に5ユーロ(約810円)の「入場料」を課す試みを始めたという。今年は適用日数を前年の29日から54日に拡大する予定で、団体客を25人以下に制限する措置も導入している。

 オランダの首都アムステルダムは、コロナ禍後、観光客数の上限を年2000万人に設定した。さらに観光税引き上げやクルーズ船の受け入れ制限、ホテルの新規建設禁止といった対策を実施している。

 それでも観光客の流入は止まらず、どうやら焼け石に水の状態らしい。