世界に響いた高校生による「黒潮宣言」

松本:南海トラフ巨大地震の新想定が出る前から、黒潮町は豊かな自然環境を活かして、自然体験型修学旅行などを誘致していました。いわゆる教育ツーリズムです。

 ただ、鰹のわら焼きを作ったり、ホエールウォッチングをしたり、四万十川でカヌーをしたりといった自然体験が果たして教育なのか、疑問に思っていました。自然には豊かな恵みがある一方で、荒ぶる瞬間もあります。こうした側面も伝えていかないと、教育にはならないのではないか、と。

 その後、津波の新想定が出たこともあり、黒潮町の教育ツーリズムは防災ツーリズムに形を変えました。従来のわら焼きやホエールウォッチングに加えて、避難訓練など黒潮町の防災体験も含めるようになったのです。

 こうした防災体験は、2016年11月に黒潮町で開催された「世界津波の日」高校生サミットでも行われました。

──「世界津波の日」とは何でしょうか?

松本:津波の脅威や対策についての関心を高めるために国連が2015年に採択した、いわゆる「防災の日」です。そこで、11月5日が「世界津波の日」とされました。

 その翌年、黒潮町では世界30カ国、およそ360人の高校生を招き、自然災害について議論するサミットが開かれました。この時に、高校生も黒潮町の小学生がやっている避難訓練を体験しています。

 この高校生サミットの最後に、高校生たちは話し合った内容を元に「黒潮宣言」を出しました。この内容が本当にすばらしくて……。

──どういう内容なのでしょうか。

松本:詳しくは以下のウェブサイトをご確認いただければと思いますが、「1.私たちは学びます」「2.私たちは行動します」「3.私たちは創ります」と、それぞれの内容を宣言した後に、以下の文章が書いてあったんです。

 そして、自然の恵みを享受し、時に災害をもたらす自然の二面性を理解しながら、その脅威に臆することなく、自然を愛し、自然と共に生きていきます。

報告書「世界津波の日 in黒潮」高校生サミット

 実は、34.4mの津波想定が出た後、黒潮町の防災対策をお話しするため、日本各地で講演する機会がありました。ただ、黒潮町の防災対策について話すたびに、損をしているような気がしていました。黒潮町は危ないと言って回るようなものでしたから。

 でも、黒潮宣言は違いました。南海トラフ巨大地震ともうまく付き合う。そんな砂浜美術館に通じる思想を世界中の高校生が理解し、世界に発信してくれた。それがとても嬉しかった。

 防潮堤についてはそれぞれの地域の事情やお考えがあるので特に何もありませんが、黒潮町はこれからも美しい砂浜と海とともに生きていこうと思います。

篠原 匡(しのはら・ただし)
 編集者、ジャーナリスト、ドキュメンタリー制作者、蛙企画代表取締役
 1975年生まれ。1999年慶応大学商学部卒業、日経BPに入社。日経ビジネス記者や日経ビジネスオンライン記者、日経ビジネスクロスメディア編集長、日経ビジネスニューヨーク支局長、日経ビジネス副編集長を経て、2020年4月に独立。
 著書に、『人生は選べる ハッシャダイソーシャルの1500日』(朝日新聞出版)、『神山 地域再生の教科書』(ダイヤモンド社)、『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』(朝日新聞出版)、
グローバル資本主義vsアメリカ人』(日経BP)、『腹八分の資本主義』(新潮新書)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)、『神山プロジェクト』(日経BP)、『House of Desires ある遊郭の記憶』(蛙企画)、『TALKING TO THE DEAD イタコのいる風景』(蛙企画)など。『誰も断らない 神奈川県座間市生活援護課』で生協総研賞、『神山 地域再生の教科書』で不動産協会賞を受賞。テレ東ビズの配信企画「ニッポン辺境ビジネス図鑑」でナビゲーターも務めた。